豊洲新市場、現場からのレポートです

10月の築地市場の豊洲移転まで、いよいよあと191日と迫りました!
Fish Lovers Japanは、先日、オープン前の豊洲新市場に潜入してきました。気になる安全対策は、どう実現されているのでしょうか。また、運用ルールは、これまでとどう変わるのでしょうか。知っているようで知らなかった、豊洲新市場の姿に迫ります。

目次

批判だけならサルでもできる!豊洲新市場を自分の目で確かめよう

築地市場の豊洲移転に関しては、これまでも何度か記事に書きました。

ところが、先日ふと気づきました。「未だ一度も豊洲新市場を訪れていないぞ。」

こんなことではいけません。都や知事を批判するだけで、現場を見もしていない自分の未熟さを、恥じ入りました。関係者から聞くまで知りませんでしたが、よく調べたら、都民なら誰でも見学できるではありませんか。早速、申し込みました。

どうやら見学会は、2017年の6月以来、毎月2日間開催されているようです。対象は都内在住者か在勤者で、中央卸売市場ホームページまたは往復はがきで受付しています。だいたい月末に、翌月の見学会を案内しています。こんな感じです。
豊洲市場の都民見学会を開催します(2018年4月分)

しかし言い訳する気はありませんが、このサイト、ものすごく地味で、「見学会があることを知った上で積極的に検索してようやく判るレベル」です。都や中央卸売市場は、もっとPRに力を入れた方がいいと思います。はい。そう思うので、Fish Lovers Japanも微力ながら、こうして周知に貢献します。

見学会の概要

日程は、だいたい週末と平日の計2日が充てられ、各日とも、10am、11am、1pm、2pmの4回実施されます。募集人数は1回につき30名程度で、応募が多い回は抽選になるようです。

豊洲市場の現状を広く知ってもらうことが目的なので、見学に先立って、30分程度、ビデオを見たりして、基本的な理解を深めます。見学は、5街区の青果棟、6街区の水産仲卸売場棟、7街区の水産卸売場棟、6-7街区間の地下連絡通路、屋上緑化広場なども含む5km、90分のコースです。通常一般人が立ち入らない場所も見学箇所に含みますが、話題の「地下ピット」は含まれません。ちょっと残念。

豊洲見学コース

見学前の説明から安全アピール

豊洲新市場のポイントとして、以下の5つを挙げていました。

  1. 食の安全・安心の確保
  2. 効果的な物流の実現
  3. 多様なニーズに応えられる施設
  4. 環境への配慮
  5. 地域への貢献

中でも、特に安全面では2点、強調していました。

第1に、有害物質の濃度は、問題となるようなレベルではないことです。2016年9月~2017年8月までのベンゼン濃度の推移を継続的に測定したデータは、パネルでも紹介されていました。

第2は、これまた話題になった「地下水位」に関してです。豊洲では、埋め立て地の底に広がる不透水層(海水面マイナス6m、盛土前の旧地盤面マイナス10m)まで、遮水壁を垂直にぐるりと打ち込んでいて、海水からの汚染を防いでいます。ただそのことで、「巨大なプール」のように水を貯めてしまう構造なので、「地下水管理システム」によって地下に溜まった雨水を制御します。このシステムには様々な機能(水位観測、揚水、水質モニター、浄化、貯留、自動制御)があり、端的に言うと、地下水があるしきい値を超えたら→自動で汲み上げて→自動で分析し→あるしきい値以上に汚れていたら→自動でキレイにした後→自動で下水道へ排水してしまう、というスグレモノです。しかも、通常は耐用年数10年程度のシステムを、100年持たせるように作ったとのこと。中央卸売市場のサイトによると、水位は漸減傾向にあり、問題ありませんね、と素人でもわかります。寧ろ、別に地下水使って魚洗うわけじゃなし金かけすぎじゃないか、とも思えます。

また、豊洲が移転先として選ばれた理由については、以下の3点を挙げていました。

  1. 駐車場や荷さばきスペースを十分確保できる「敷地の広さ」
  2. 高速道路出入口や幹線道路から近い「交通アクセスの良さ」
  3. これまで築き上げた商圏の継続性が保てる「築地からの近さ」

このあたりの説明は、その際いただいたパンフレットに、詳しく載っていました。興味があれば、是非ダウンロードしてみてください。

十分広い「はず」の豊洲新市場

上でも触れたとおり、移転先として豊洲が選ばれた理由のひとつは、「広さ」です。敷地全体で言うと23ha(築地)→40ha(豊洲)ですから、十分広いはずなのですが、「狭くて使えない」という批判もしばしば耳にします。本当のところ、どうなんでしょうか。水産の卸売場、仲卸売場を個別にみてみましょう。

卸スペースに関しては、2.4ha(築地)→6.3ha(豊洲)と倍以上に増えています。実際に卸売場に立ってみて、昨年築地でセリ場を見学した私も、その十分過ぎる広さを実感しました。

豊洲大物卸売場

マグロ・カジキなど、大物と呼ばれる卸売場の床は、緑色に塗られています。開場したらここには一般人は立ち入れないので、貴重な体験でした。それにしても、広い!

一方の仲卸店舗ですが、見たところ、奥行きはともかく、確かに間口が狭くなっています。

豊洲仲卸売場

1コマあたりの仲卸店舗は、7.2㎡(築地)→8.25㎡(豊洲)と数字上は広くなっていますが、店舗が「ウナギの寝床」のように縦長で使いにくい、それに加え、食品衛生法上の営業許可基準に必要な「壁」や「間仕切り」が義務化され、狭さを感じさせる、ということのようです。確かに、もう少し広い間口で設計しておけば、と同情はしますが、移転・リニューアルに際し、80年前のまま「放置」されていた壁のない「築地基準」の既得権益を法令遵守に優先させろ、という主張は、やはり無理筋です。

また、豊洲の仲卸売場は 1,630 コマあって、これは現在の築地のコマ数と同じです。2013年の設計時に680社を数えた仲卸業のうち、豊洲への移転を予定しているのは540社ですので、スペースは十分あるはずです。もちろん売場面積を広げるためには借り増しが必要ですが、豊洲市場の売場の使用料は、1コマあたり17,200円/月(税込)と、破格に安いのです。少々厳しい言い方ですが、狭いと言うなら、もう一コマ借り増しすればいいだけのように思えます。

まるで巨大要塞!様々な工夫が凝らされた豊洲

全然知られていない、最先端の電力設備

見学コースではありませんが、都の職員の方からの説明で驚いたのは、「豊洲新市場はエネルギー対策面で最先端」ということです。17,000kWもの最大電力需要(築地の1.3倍)を

と3系統からの供給でまかなう構造です。

また、災害など外部からの電力が途絶えた時には、5街区のガソリンスタンドのタンクを利用し、自家発電するとのこと。その能力は、市場の巨大冷却設備を3日間稼働させられる、というから驚きです。
地味ながらすごいこの事実を、都はもっとアピールしたらいいのに。

何よりも優先すべき、衛生面の配慮

「ハンズフリー」も徹底されていました。今回の見学ツアーでは、トイレはほとんど使えませんでしたが、聞けば、液体石鹸、水、ハンドドライヤーなど全て非接触で手洗いできるとのこと。扉の開閉も赤外線センサーによる非接触という、これはなかなかの徹底ぶりです。

また、衛生面のみならず、空調面でも素晴らしいのは、卸売場棟から連絡通路に抜けるドアに設置された、センサーで開閉する自動の高速シャッター。併設されたエアカーテンとともに、ゴミや虫の進入を防いでいます。

豊洲シャッター

セリ場の見学は、大きなガラス越しに

築地での大問題のひとつは、ガイドブックにも取り上げられ、大挙して訪れるようになった一般観光客や見学者がセリ場にも侵入し、市場の本来業務にしばしば支障をきたすことでした。こうした見学者の立ち入りを想定していなかった築地の反省に立ち、豊洲では、見学者と業者の導線を完全に分離することで、安全かつ衛生的に、市場を観光資源とすることが可能になったのです。

豊洲見学路3F

これは、2階見学者通路から地下の卸売場を眺めたところ。開場後はこうして大きなガラス越しにセリ場を見学することになります。競り人と見学者が同じ空間に存在する現在の築地の形態は、衛生面・安全面で言うと、やはり少し異常です。考えてみれば、当たり前のことです。

豊洲見学路2F

これは、もう1フロア下がった1階からの眺め。ぐっと臨場感が違います。写真ではわかりづらいかもしれませんが、ガラスはあるものの、その上部は開いていて、音も筒抜けです。開場後にここを一般開放するかどうかは、未定とのこと。もしかしたら、VIPのみのエリアになるかもしれません。

課題だと言うターレスロープも、問題なし

ターレというのは、正式にはターレットトラックと言って、立った姿勢で操縦する荷運び用の自動車のこと。築地では、ガソリン車で公道をバンバン走っていますが、ここ豊洲では、電動のみで市場内限定だそうです。実は、仲卸店舗のある仲卸売場棟1階から、4階の駐車スペースまで、長いスロープをえっちらおっちら上る必要があります。

豊洲ターレスロープ

車線などない築地ではかなり高速ですれ違っていて「よく事故起こさないな」と思っていましたが、流石に豊洲ではちゃんと、上り2車線下り1車線のラインがきれいに引かれています。まあ当たり前か。

で、反対派の方が目クジラ立てているのが、ここ。各階の踊場の、通称「ヘアピンカーブ」です。

豊洲ヘアピンカーブ

ターレの前輪は90度以上回転するので、曲がる時のアールはかなり小さいです。設計する際はターレに乗る事業者と試行錯誤したとも聞きますし、このぐらい余裕じゃないのかなぁ。大きなミラーもついていて対向車も見やすそうだし。

でも、「豊洲じゃターレ満足に走らないぜこりゃ」とか批判されると、頑張って整備しちゃうのですね。何と、ターレが乗れるエレベーターを作っちゃった!のには驚きました。最大積載荷重6,600kgですって。しかしながら、気の短い魚屋さんがこれに乗るためにボタン押して待つとは、どうも考えにくい。これはやり過ぎな感があります。

豊洲エレベータ

地下水管理システムの件もそうですが、移転反対派の方々は、騒ぐだけ騒いで、その度にコストアップになって、そのツケが最終的に消費者に回ってくる、という当たり前の意識を持ってほしいものですね。

あ。あと、築地の場外や晴海通りを超えた路地あたりを走っているターレを見るのは、風情があって個人的にとても好きでしたが、それが豊洲では見られないと思うと、少し寂しいです。

開放的で眺望最高な屋上

仲卸売場棟の屋上は「屋上緑化広場」という公園になっています。ここは、豊洲ぐるり公園とも繋がっていて、市場の見学をしなくても、一般に立ち入りのできるエリアです。これまで一部しか開放していなかった豊洲ぐるり公園も4月1日には全面開放したので、ここは都内の新名所になりそうな気がします。何故って、ものすごく開放的で気持ちのいい場所ですから。ジョガーとか釣り人も来そうです。

豊洲屋上1

これは晴海ふ頭を望んだ眺め。奥には東京タワーが見えますね。
別の角度では、スカイツリーが望めたり、日によっては富士山も見えるとのこと。
水辺で憩うのは、いいですね。

豊洲に千客万来押し寄せるのは、いつの日か

ご案内の通り、豊洲市場内の観光拠点千客万来施設の整備は、宙に浮いています。

豊洲千客万来1

6街区の仲卸売場棟の東側がその予定地なのですが、寒々とした風景が広がっていて、何とも寂しい気持ちになりました。これだけシッカリした市場施設に隣接したモールなら、売り方さえ間違えなければ、お台場も真っ青の、本当に素晴らしい賑わいの施設になる可能性を秘めていたと思います。

豊洲千客万来2

最初の説明の部屋に掲げてあった、千客万来施設の予想イラストが、虚しく思い出されます。あ~あ「築地は守る、豊洲は生かす」などと両方にいい顔すると、やっぱりロクでもないことになりますよね。

あと、少しのトリビア

質実剛健というか、豊洲新市場の「真面目な」つくりを中心にご紹介してきましたが、やはり人が集まるところ、楽しい仕掛けもいろいろありました。その一部をご紹介します。

豊洲マグロ

見学コースの最初に現れる巨大なマグロ。これは築地で取引された最大のマグロのレプリカなんだそうです。今回の見学でも、ほとんどの人がカメラにおさめていましたね。子供たちも大喜び。

豊洲マンホール3

豊洲マンホール2

豊洲マンホール1

よく見てください、このマンホールたち。用途の違いを「目利き」、「魚河岸」、「粋」という大きな文字で表しています。こういう遊び心は、とってもいいですね。きっと整備やメンテナンスの人たちも、この大きな文字を目印に仕事するんだろうな、と想像するだけで、楽しくなってきます。

一緒に市場文化を作りましょう

長文のレポートを最後までお読みいただき、ありがとうございます。という訳で、水産設備だけで力が尽きました。青果棟のレポートは、いつか気が向いたらします!(笑)

計2時間にも及ぶ見学のおかげで、新市場に対する理解は大いに深まりました。やはり、ニュースなどの伝聞と現場での確認は違いますし、職員の方の丁寧な応対で様々な疑問が解消しました。それと、移転という「100年の計」を目撃した思いで、なんだかとてもワクワクしました。これは見学しなければ決して味わえなかった感覚です。

ただ、今回の見学では、豊洲新市場の設備は立派だということが確認できただけです。当たり前ですが、設備の整備は必要条件であって、十分条件ではありません。これからの課題は、ハコに魂を入れる行為。それはもちろん、競りにかける「荷受け」、競りを落とす「仲卸」、仲卸から仕入れる「町の魚屋」や「料理店」、それと最終的な「消費者」すべてが関わって、築地で培った市場文化を継承し、あまつさえ、21世紀型の世界に開かれた市場として、発展させていく行為です。

どうでしょう。あなたがもし東京都にお住まいなら、実際に見学してみては如何でしょうか。豊洲にまで足を延ばし、一度ご自身の目で確かめてみると、都民の台所のいろいろな裏事情が見えてきます。まだ空(す)いているし、開場後には立ち入れない箇所も見学できる、今が狙い目ですよ!

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