読者の方から「鰻を書いて」とリクエストされました。
忸怩たる思いを堪えつつ、「一の丑」である本日、ウナギについて書きたいと思います。
目次
そもそも「土用の丑の日」とは
「土用」というのは、季節の変わり目にあたる立夏・立秋・立冬・立春直前の、約18日間を言います。
ですから、「土用の丑の日」とは、「土用期間中に訪れる丑の日」のことです。
2017年の土用の丑の日は、以下のとおりです:
- 1月26日
- 4月20日
- 5月2日
- 7月25日
- 8月6日
- 10月29日
今夏は土用の丑の日が2回あって、7月25日が「一の丑」で、8月6日が「二の丑」です。
「土用の丑の日」には何故ウナギを食べる?
「土用の丑の日」と言えば、ウナギ。
あなたもそう思い込んでいますよね。
2017年の土用「一の丑」の1日だけで、年間消費の14%もウナギを食べているんです。
7月1ヶ月の通算では、何と37%もの消費。
異常な「お祭り」状態です。
【出典】総務省統計局 家計調査 土用の丑の日と「うなぎのかば焼き」
いつの頃からか私たちは、土用の丑の日にはウナギを喰うもんだ、と信じ込んでいます。
しかし、この「強迫観念」の正体は、ある仕掛けられた「セールスプロモーションの結果」なのです!
土用はそもそも季節の変わり目に当たりますし、特に夏場は体力が衰える季節ですから、滋養のある食べ物を摂ろう、という意図は理解できます。
実際、疲労回復や食欲増進に効果的なビタミンAやB群などを多く含み、かつ消化吸収が良いウナギは、夏バテ防止にはピッタリの食材と言えます。
しかし一説によれば、蘭学者の平賀源内が、鰻屋から「夏に売り上げが落ちる」と相談を受け、夏場が旬でも何でもないウナギを売らんがために、店先に「本日丑の日」と貼り出したのが、「土用の丑の日」にウナギを食べた始まりだと伝えられています。
こんなコピーライティングが原因だったのです!
ちなみに、「丑の日」なので「う」のつく食べものを食べると病気をしない、という言い伝えもあります。
先日放送されたみをつくし料理帖の「う」尽くしの回では、卯の花(おから)和え、梅土佐豆腐、瓜の葛ひき、埋め飯(うずめめし、具を中に隠した丼)、梅の蜜煮などの料理が紹介されていました。
この他にも、うどん、ウサギ、馬肉、牛肉など、何でもよかったらしいですよ。
全くいい加減で、おおらかな先達ですね。
ところでウナギの旬はいったいいつなのか
天然ウナギの旬は秋~冬
天然ウナギの漁は5月頃~12月ですが、旬は、秋から冬にかけてです。
特に、水温が下がりはじめる、10月以降が旨いとされています。
というのは、水温が10℃以下になると、ウナギは、摂った食物を充分に消化吸収することができなくなり、泥の中に潜んで冬眠する習性をもっているからです。
この、冬眠に備えてたくさん栄養を蓄えた個体が旨い、という訳です。
中でも、川や湖で5~15年かけて成長し産卵のため川を下る「下り鰻」は、栄養を蓄えて特に旨いとされています。
身全体に脂がのった下り鰻は、9月以降の、台風や大雨の翌日以降、川を下ることが知られています。
養殖ウナギには旬はない
一方、ビニールハウスなど徹底した温度管理のもとで養殖(正確に言うと「蓄養」)されるウナギには、季節による味の差はありません。
つまり、養殖モノには特定の旬はない、ということです。
夏の土用期の需要に合わせて大量出荷されるので、夏(6~8月)頃が旬だという信じている方も多いようですが、これはトンでもない勘違いです。
自然には成鰻まで5~15年かかるウナギを、僅か半年~1年で出荷する養殖モノは、旬の概念がないばかりか、生物としては相当無理して育てたものと言えます。
ますます希少になる天然ウナギ
私たちが日ごろ魚屋やスーパーなどで目にする国産ウナギは、ほぼ養殖モノです。
2018年度の生産統計では、養殖モノの生産高が15千t/年に対し、天然モノの漁獲高は僅かに68t/年! たった0.5%に過ぎません。
市場ではこれ以外に、輸入の養殖ウナギが国内生産量の倍以上(33千t/年)も流通しているので、国産天然モノは、全供給量の0.1%ということになり、もの凄く、トンでもなく希少だと言えます。
【出典】水産庁 ウナギをめぐる状況と対策
ニホンウナギは絶滅危惧種
ニホンウナギの個体数は、激減しています。
シラスウナギと言われる日本ウナギの稚魚は、1970年代後半からめっきり獲れなくなり、それ以降も継続的に減少してきました。
グラフを見ると、一目瞭然。
【出典】水産庁 ウナギをめぐる状況と対策
そしてついに2013年2月、二ホンウナギは、環境省のレッドリストで絶滅危惧種に指定されてしまいました。
更に2014年6月には、国際自然保護連合の最新レッドリストに「絶滅の恐れがある野生生物」として追加指定されました。
養殖モノと全く異なる、天然モノの味わい
天然モノは、淡白でアッサリしていて、脂が乗っていながら、くどさが全くありません。
また、味に力強さがあります。
蒸さずに焼きだけで食べると、その旨さがとてもよくわかります。
養殖モノとの差は歴然で、両者は、「全く違う食べ物」だといえます。
喰うべきか喰わざるべきか、それが問題だ
年々減少の一途を辿っている天然ウナギは、まさに絶滅の危機に瀕しています。
それならば養殖ウナギを食べればいい、と言うかもしれませんが、それは的外れです。
ウナギの「養殖」は、人工孵化卵からの「完全養殖」ではありません。
正確に言えば、捕獲した天然の稚魚を短期間に効率的に太らせる「畜養」です。
なので、養殖ウナギであろうと、限りある天然資源を消費していることに、何ら変わりはないからです。
そういう種を、在るうちに食べたいが、しかしながら種の保存の観点で言うと、「完全養殖」が商業ベースにのるまで、我慢すべきなのかもしれません。
非常に悩ましいトコロです。
いずれにしても、もし口にする機会があれば、いのちに感謝していただくことと致しましょう。
でも天然モノを食べるなら、旬は秋だからね。
コメント
蒸さずに焼くのは関西風ですか?「背開き」or「腹開き」も違うそうですね。
さはさりとて、スッキリした脂の天然鰻、暫く出会ってないです。新米から醸造したばかりの日本酒に白焼き!至福の時part-2です・・・
debux2さん!
鰻の捌き方、東西で違いますよね。
関西は、腹開きで、蒸さずに焼くだけ。
関東は、背開きで、蒸した後に焼きます。
面白いですよね。
土用鰻源内起源説が定説と言うことになっていますが、歴史学的には何一つ根拠のない出鱈目ですよ。
milk3さん!
コメントありがとうございます。「出鱈目」という字がいいですね。
ところで、ご指摘の源内説ですが、問題はソコじゃありません。
天然の旬でも何でもない時期に食べよう、と消費プロモーションをかけた人間がいて、それに踊らされていることが愚かだ、と申し上げています。
別に言い出しっぺが、源内であろうが源外(笑)であろうが、全く主張は変わりません。