冬の味覚アンコウは、見た目はグロテスクだけど鍋に最高な高級魚

平たい魚体に大きな頭。巨大な口には鋭い歯が並ぶ、グロテスクな魚、アンコウ(鮟鱇)。しかしアンコウは、「西のフグ、東のアンコウ」とも言われる、冬の味覚の代表です。味は淡白で、コラーゲンたっぷり。脂肪が少なく低カロリーなため、女性にも人気の高級魚です。

鮟鱇

目次

太ったメスしか食べない

日本近海には12科26属67種のアンコウが棲息しますが、これらのうち食用となるのは、アンコウ科のアンコウとキアンコウ、フサアンコウ科のミドリフサアンコウです。一般的に日本で食用とされるアンコウは、和名キアンコウです。キアンコウの主な漁場は常磐沖と黄海。アンコウは東シナ海、ミドリフサアンコウは東シナ海、四国沖、駿河湾などです。

大きいものだと、全長1.5m程に成長します。上から見ると、楽器の琵琶やバンジョーに似た形をしています。相撲で、丸みがあって太っている力士を「あんこ形」と言いますが、これはもともと「アンコウのような体形」という意味なんだそうです。扁平で大きな受け口が特徴です。メスはオスよりも早く成長し、体が大きく寿命も長いです。食用となるのはメスだけです。

水深30~500mの砂泥状の海底に棲息します。泳ぎが得意でなく、砂に潜り、擬餌状体という誘引突起を揺らし、これを餌だと思って寄ってきた魚を飲みこみます。主な食べ物は小魚やプランクトンですが、イカ、サメ、カレイ、蟹、ウニ、貝、カモメ、ペンギンなども食べることがあり、「アンコウの悪食」といわれる雑食性です。

底引き網(トロール網)で他の魚と一緒に水揚げされます。漁獲高日本一は山口県下関市ですが、茨城県を境に「北のアンコウ」「南のアンコウ」と分けられ、北の海で獲れるアンコウの方が高値で取引されます。特に親潮と黒潮が交わる鹿島灘海域はプランクトンが豊富で質が良く、久慈漁港や平潟漁港で主に水揚げされている常磐モノは、築地市場で上物とされています。

キモが肥大化する冬が旬

アンコウが美味しい理由は、海のフォアグラとも例えられる「あん肝」のおかげといっても過言ではありません。まさにキモが肝心。キモが肥大化する11月~2月が一番旨い時期とされています。

あん肝生

アンコウの「吊し切り」は冬の風物詩

鮟鱇吊し切

巨体のアンコウは、85%以上が水分で身が柔らかく、捉えどころがないばかりか、大量の粘液に覆われてぬめりが強いため、まな板でさばくのは容易ではありません。そこで考えだされたのが、「吊し切り」です。鉤状の金具でアンコウの下顎を引っかけて吊し、口から水や氷を入れて、安定させて捌く伝統的な解体法です。

茨城県内のホテルなどでは、観光客向けにアンコウの解体ショーを開催しているところもあり、この吊し切りは福島や茨城の冬の風物詩となっています。

アンコウは「7つ道具」を持つ

アンコウは、捨てる部位のほとんどない魚です。「7つ道具」とも呼ばれるトモ(ヒレ)、皮、エラ、キモ(肝臓)、水袋(胃)、ヌノ(卵巣)、身(柳肉りゅうにく)は、すべてが可食部で、要は、歯・目・骨以外はほとんど全身が食べられるのです。

また栄養価も高いアンコウは、健康的な食材と言えます。身はたんぱく質・脂肪ともに少なく、ビタミンB12やB1、ナイアシン等を含みます。脂肪の多いキモは、亜鉛、銅、ビタミンA、E、Dなどを大量に含むほか、DHA・EPAなどの多価不飽和脂肪酸も豊富です。このキモは昔から珍味とされ、東海道「常陸路」から皇室へ献上された高級食材でした。

食べ尽くそうではないかアンコウの旨みを!

アンコウの肝蒸し

あん肝

いわゆる「アン肝(あんきも)」です。丁寧に薄皮を剥いだキモを、ラップやアルミホイルを使ってソーセージ状に細長く包み、蒸し器で20分ほど蒸します。もみじおろしとポン酢を添えていただきます。手間をかけるだけの価値のある、冬の絶品肴です。

但し、肝にはアニサキスが寄生している場合があるので、自分で作る場合は、適正に処理してくださいね!

鮟鱇鍋は冬の幸せ

鮟鱇鍋

アンコウといったら鍋物、と言われる程の定番です。7つ道具すべての味と歯ごたえを楽しむことができ、体の温まる鮟鱇鍋は、関東地方の冬の鍋の王者です。出汁は、カツオ節でも昆布でもお好みで。また、肝の多寡や味付け(醤油仕立てか/味噌仕立てか)によってもコクや風味が大きく変わりますので、好みの味付けを追求するのも楽しいでしょう。

濃厚なコクと旨味の「どぶ汁」

どぶ汁

土鍋にキモを入れて火を入れ、オレンジ色になるまで溶かします(これを「空煎り」と言います)。ペースト状になったキモに、アンコウの身肉やエラ、野菜を入れ、蓋をして、アンコウの身と野菜から出る水分で煮ます。最後に味噌で味つけをすれば出来上がりです。水を一滴も使わず、身と野菜から出る水分のみで調理するため、一般のアンコウ鍋とは比べモノにならないほどの濃厚さを味わえます。

人によってはクセが強すぎて食べづらいかも知れませんが、強烈なコクや旨味を一度知ると、忘れられない味です。

唐揚げ

アンコウの身は、水分が多く淡白な為、刺身では美味しくありませんが、 唐揚げにはピッタリです。水洗いして皮を剥き、尾の部分を唐揚げにします。クセのない白身で、揚げることで多量の水分が抜け適度に締まり、中は豊潤で外はかりっと香ばしい、フグにも似た食感と味が楽しめます。

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