生マグロの競り現場では厳しいプロの仕事が整然と進行していた

一般人は決して見ることのできない生マグロの競りを、東都水産(株) 大物部 副部長の西田雄三さんのご厚意により、見学させていただきました!

西田さんは、ドキュメンタリー映画築地ワンダーランドにも出演されている、生マグロの競り人の第一人者です。

目次

夜も眠らない築地市場

深夜の築地

1:30am。

真っ暗な築地市場に到着しました。
波除神社に手を合わせて入場する関係者に続き、私も海幸橋門から場内へと進みます。
既に、競りにかける荷はトラックで搬入され、ターレ(ターレット・トラック)が行き交っています。

煌びやかな喧騒も既に寝静まった銀座のすぐ隣で、夜も眠らずうごめく市場を観ると、何だか異次元世界にタイムスリップでもしたような、不思議な高揚感を覚えます。

毎日競りにかけるマグロは100本

この日の東都水産(株)の取り扱い生マグロは、52本でした。
素人目には壮観に見えますが、通常は100本前後、多い時は200本を超すので、これはとても少ないのだそうです。
選挙が始まると消費を手控える傾向がありその影響もあるかもしれない、とのこと。
また自然相手なので、当然、日によって取扱量の多寡はあるのです。

生鮪1準備

1:30am時点で既に到着した50本は、木製パレットの上に整然と並べられています。
残り2本も2:30amには到着しました。
この時刻で、競りのための準備は、既にほとんど完了している事実に驚きます。

トレーサビリティ

荷と伝票の突合作業。
当たり前ですが、偽装などないよう、トレーサビリティには特に神経を使います。

マグロ計量

到着したマグロの計量作業。
申告された重量を鵜呑みにせず、必ず確認します。
こういった「当たり前」を確実に作業することで、初めて競りが成立するのです。

生鮪2大間

本日一番のマグロ(写真左)。
やや小振り(161kg)ながら、青森県大間産の上物でした。

生鮪3塩釜バチ

マグロ1体毎に、産地や漁獲法が明記されています。
これは延縄で獲った塩釜産。
仲卸がその色や脂の乗りをチェックし易いように、尾を切って断面を見せます。
ちなみに、切った尾も捨てずに、エラに挟んでおいたりします。
尾の様子で、漁獲法や漁獲時に暴れたかどうかなど、マグロの品質がチェックできるからです。

生鮪5ジャンボ

これは、空輸された生マグロ。
米東海岸からジャンボジェットによって運ばれるので、「ジャンボ」とも呼ばれます。
輸送コストを少しでも削減するため、首を落とした「ドレス」の状態で運ばれます。
この荷受け社(築地魚市場(株))のジャンボはこの日55体を数え、数少ない国産モノを補っていました。

勝負は競りの前から始まる、というより、既に終わっている

生鮪6

3am過ぎ。

生マグロは木やアルミのパレットの上に整然と並べられ、順に番号が振られ、競りの準備も万端です。
生マグロ競り場は、だいたいバスケットボールコート程の大きさで、そこを1/5に区切り、荷受け5社によって使われます。
公平を期すために、その位置も一定期間でローテーションします。
競りは同時進行で行われるため、仲卸はどの荷受けの競りに参加するのか、戦略を練る必要がありますし、荷受け5社も、生マグロの並べる順番などを工夫したりします。

生鮪7

4:30am過ぎ。

前の写真と見比べると、仲卸が集まってきた様子が分ると思います。
みんな手鈎(てかぎ)(「鮪鈎(まぐろかぎ)」とも言うらしい)でエラや腹をめくり、懐中電灯で中を覗き込み、尾の断面を触ってはマグロの状態をチェックし、熱心にメモを取っています。
中には、随分前にやってきてあらかたチェックを済ませた部下が、今やってきた上司に報告したりしています。
競りの策を練る戦いの時間は、既に最終段階、という感じです。

生鮪8競り

5:30am。

いよいよ競りの開始です!
鐘の音が高らかに響き、5社一斉に競りがスタートしました。
競り人が番号でマグロを指定すると、仲卸は一切無言のまま、入札の単価(1㎏を幾らで買うか)を手で示します。
競り人はそれを確認し、次々と落札仲卸を決めていきます。
52体の競りに要した時間は、僅かに10分余り。
よどみないテンポで競りが進むさまは、とても小気味いいです。

競りというのは、その日の状態においてお互いが納得した価格の「確認」作業なのだと、素人は今更ながら気付きます。
プロフェッショナルの仕事が粛々と進むさまは、とても美しく感じられました。

生鮪9搬出

6am。

仲卸の人たちは、競り落としたマグロを荷台に乗せ、市場内に隣接した自分らの店舗に運び始めます。
瞬く間にマグロが搬出され、競り場は閑散としてきます。
ガランとした競り場は、宴の後のような心地よい虚脱感に包まれているようです。

真剣勝負の応用編が毎日の「食」を支えている

競りとは、1日として同じ日はなく、毎日が応用編なのだろうと思います。
もちろん、基礎動作の大切さは間違いありませんが、毎日の決まったルーティンを淡々と遂行するのとは、180°違う世界です。

天候、入荷量、個々のマグロの質、ライバルの状況など、多岐に亘るチェック項目から売り買い(需給)のバランスを見極めることは、プロの五感をフル動員して初めて成立する仕事なのだと、目の当たりにしました。
私たちの毎日の「食」は、こういった真剣勝負の応用編に支えられているのです。

興味深いお話も伺いました。

荷受け社の競り人は、個々人で地方市場仲卸からの販売ルートを確保しています。
実は驚くべきことに、同じ会社の競り人が、同じ地方市場の隣の仲卸と契約する、ということも頻繁に起こるのだそうです。
荷受け会社も、一切そのことに介入したり調整したりしません。
つまり競り人同士は、例え同じ荷受け社の所属であっても、ライバル関係。
この厳しい環境が、築地の目利きの質を高め、商売のダイナミズムを生む源泉なのだと、あらためて感心しました。

生鮪4五島

豊洲移転の前に、しかも一般人は絶対に見学できない生マグロの競りを体感でき、大変に勉強になりました。

違うな。
何だか「脳の真ん中の芯の部分が痺れるような、強烈な体験でした」というのが正しいですね。

アタマでわかったつもりになることが一番始末に悪い、と痛感しました。

【番外】生マグロ以外の競りの準備の様子も見せていただきました

競りの始まる前(3~4pm)に少し時間に余裕ができたので、西田さんに他の競り場も案内していただきました。

冷凍鮪

これは冷凍マグロの競り前の様子です。
実は、冷凍マグロの競りだけは一般公開されています
「おさかな普及センター」で受付してくれますが、予約はできず当日4amぐらい迄に行かないと定員になってしまうみたいですし、大半の見学者が外国人だそうですが、興味があれば参加されるといいと思います。

遠洋船で漁獲された天然のマグロは、獲った船上で既にカチンコチンに-60℃瞬間冷凍されます。
整然と並べられたマグロから出る冷気で、床にスモークがかかっている様は、何だか圧巻です。
荷受けの人たちが、マグロ表面の氷結をデッキブラシでこそげ落していたりもして、ちょっと、非日常な空間です。

その他鮮魚

鮮魚の競り場の様子です。
「鮮魚」とは、活魚、海老、雲丹、大物以外の「生鮮もの全て」という意味です。

取扱い品目数と量がとにかく多く、広大なスペースで取引されます。
カメラが捉えた範囲は1社分ちょっとのスペースで、これが5社分あります。ちょうどプラットフォームが曲がっている場所から、南に位置しています。

雲丹

これは雲丹の競り場。
ここだけ、競り場が2Fの部屋です。
箱詰めされた雲丹が整然とビルのように並んでいて、ちょっと面白い光景です。
高値の時は、卸でも7,000~8,000円/箱というべらぼうな価格をつけることもあるとのことでした。

活クルマエビ

海老は、活(かつ)のまま取引されるため、競り場には、発泡スチロール内に空気を送るポンプ装置が完備されています。
ちなみに、活魚の競り場も同様の装置を完備しています。

他には、築地に生きたまま届けられる魚介を取り扱う「活魚(かつぎょ)」、しらす干し・スルメ・煮干しなど生鮮以外の加工品を取り扱う「塩干(えんかん)」などの競り場があります。

競り場の位置関係や詳細は、前出の築地ワンダーランドにて確認するといいでしょう。見応えありますよ。

弊社ショップネットの魚屋にて、天然本マグロがお求めいただけます!

ネットの魚屋

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