出世を狙う上目づかいなヒラメは、冬に旨い究極の白身魚

ヒラメ(鮃、平目)は、マダイと並び、代表的な白身魚です。透明感のある身は、歯ごたえのある食感と共に、独特のうま味と適度な脂があり、鮨種としても欠かせません。漁獲量が少なく高級魚でしたが、近年は養殖技術が向上し、スーパーなどにも並ぶようになりました。

平目イラスト

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出世を狙う上目づかいなヒラメ

ヒラメというのは、元々東京近郊の地方名でした。また関東では、1kg以下をソゲ、2kgまでを大ソゲ、2kg以上をヒラメと言って、出世魚として知られています。

ところで、出世を気にして常に上の機嫌を伺う人間を「ヒラメ人間」と揶揄しますが、これは、海底で生活しているヒラメが、両目のついている体の左側を常に上に向けていることに由来します。

小魚などを襲い食べる肉食派

日本各地の、水深10~200mの沿岸の砂地で広く漁獲されています。雌の方が大きく1m前後に成長しますが、雄は60cmほどまでです。背鰭、尻鰭が非常に長く、身体全体を縁取っています。

有眼側(目のある方)が体の左側で、「左ヒラメに右カレイ」といってカレイ類と区別します。また、ヒラメは獰猛な肉食派で主に小魚を捕食するため鋭い歯をもちますが、ゴカイやイソメなどの虫餌を主に食べるカレイの歯は、小さな細かいヤスリのようになっています。

産卵期は南に行くほど早く、九州南部では1~3月、本州では2~6月、北海道では6~8月です。旬は、本州などでは秋から冬、北海道では秋から初夏までと思っていいでしょう。

天然モノは北日本、養殖モノは九州四国

流通しているヒラメは、国産の天然モノ、養殖モノの他、中国などからの輸入モノもあります。天然モノでは、寒い時期には大型が、春から秋には小型の「ソゲ」が流通します。

2016年度のデータで言うと、天然モノの漁獲は7,100t/年、養殖モノの生産は2,300t/年です。ちなみに「カレイ類」の漁獲量は4万t/年を超えますので、ヒラメが烏賊如何に希少かが分ります。

都道府県別で比較すると、何れも多い順に、漁獲量は青森県、宮城県、千葉県、茨城県と本州北部が占め、養殖生産量は鹿児島県、大分県、愛媛県、長崎県と逆に九州・四国が占めています。

【出典】農林水産省 漁業・養殖業生産統計

全国のブランドヒラメたち

青森天然ひらめ(青森)

ヒラメの漁獲量日本一を誇る青森県の中でも、佐井村・大畑町・脇野沢村・八戸みなとの4漁協は、青天ひらめ(青森天然ひらめ)ブランド取り組んでいます。水揚げしたヒラメを7~10日間水槽で安静蓄養し、漁獲時のストレスによって失われた旨味成分(イノシン酸)を回復させ、活け締めし、最も旨味成分が多くなる48時間後に出荷します。

平戸ひらめおがみ(長崎)

長崎はヒラメ養殖も盛んな県ですが、九州西端の平戸市志々伎地区は、日本有数の天然ヒラメの水揚高を誇る漁港として知られています。五島灘の荒波にもまれた身締まりの良さが特長で、中でも1kg以上のサイズのものを「平戸ひらめおがみ」として認定し、出荷しています。

かぼすヒラメ(大分)

生産量日本一の大分県の養殖ヒラメが、全国9割の生産量を誇るかぼすとコラボ。かぼす果汁を餌に混ぜることで魚の臭気を消し、抗酸化作用によって鮮度も保持します。ちなみに大分では、かぼすブリもブランド化しています。

笠戸ひらめ(山口)

温暖な気候と良質な水によって育てられた山口県下松市の笠戸湾の「笠戸ひらめ」は、引き締まった身が特徴で、養殖でも天然モノに負けずに美味と評判です。

謎の生物パンダビラメ

ヒラメは、無眼側(目のない方、いわゆる裏側)が真白なのが天然モノです。これが素人にも最も判り易い外見的特徴です。一方の養殖モノは、無眼側が真白ではなく、暗褐色化した斑紋があります。有眼側(目のある方、いわゆる表側)の暗褐色部分が、本来白色に発色しているはずの裏側までまわり込んだ、という感じです。鮮魚市場や高級魚屋でヒラメを裏返して並べているのは、天然モノと養殖モノを区別させるから、と言われています。

ところでヒラメは、資源保護のため、ある大きさに達しない個体は再放流したり、稚魚は放流されたりしています。こういう個体を成長後に釣り上げると、裏側の暗褐色の紋様が消えずに残っています。これがパンダビラメの正体です。漁師や釣り人が漁獲した天然モノの筈のヒラメは、そのパンダの紋様に、成長過程の記憶を留めている、ということです。

天然モノとして漁獲されたパンダビラメは、食味において、真白な天然モノとなんら差異は無いと言われています。一応市場価値的序列としては、天然モノ>パンダビラメ>養殖モノとなると思いますが、そもそもマダイやブリほどの天然/養殖の味の差がないヒラメですから、この三者の差は僅かだと言っていいと思います。

料理法いろいろ

平目ソテー

透明感のある白身で、熱を通しても硬く締まることがありません。皮は厚みがあって丈夫。骨はやや硬いですが、小骨はないので、食べやすい魚です。生食の他、煮物、焼き物、揚げ物まで、幅広く調理できます。

刺身

平目刺身

大型の個体の方が旨いです。鱗は細かいので、鱗取り器を使わず、包丁で梳き引きするか、金タワシや金ブラシで擦り取ります。内臓の中でも、緑色と小豆色をしている苦玉(胆嚢)は、潰して色や苦味が身に移らないよう注意します。ちなみに、肝や胃袋は美味しくいただけるので、丁寧に処理しましょう。身は五枚卸しにした後、薄造りにしていただきます。透明感のある白身は、究極の絶品です。

昆布締め

平目昆布締

少し小ブリのものは、刺身状に切った後、昆布で挟んで1~2日締めてみましょう。水気が抜け飴色を帯びた身は、一層うま味と甘味を増し、新鮮な刺身とは全く別のご馳走として、あなたの目の前に姿を現すことでしょう。ああ堪らん。

エンガワの刺身

平目エンガワ

エンガワ(縁側)というのは、五枚卸しにした身のいちばん外側、鰭際の端のことです。ここは脂が乗り、独特の食感が楽しめて強いうま味がある人気の部位で、鮨屋のメニューとしても「平目」と別売りしていることも多いです。但し、質の良くない鮨屋はカレイのエンガワを使っている場合もあり、酷い時には、旨みも何もなく脂が回って不味いだけの鮮度の悪いモノを出されることもしばしば。そんなことにならないよう、身ごと自分で買って自分で捌きましょう。ちなみに、天然モノはエンガワが発達しないことが多く、立派なエンガワが付いている切身は大抵養殖モノです。

唐揚げ

平目唐揚

小さめのヒラメは唐揚にしてみるのも結構です。鰭までバリバリ食べられます。ワタを抜いたヒラメは、酒をふりかけて臭みを消し、塩胡椒します。片栗粉をはたいて、180~190℃ぐらいの油で揚げます。サッパリと、ポン酢+もみじおろしでいただきます。う~ん贅沢。

潮汁

刺身でサク取りした後のアラは、捨てずに食べましょうね。唐揚げにしてしまう手もありますが、潮汁も大変結構です。アラは湯通し後、冷水に落としてあら熱を取り、水から煮出した昆布出汁で煮て、酒と塩で味つけします。しみじみと旨い出汁が出て、幸せな気分になります。

フライ

平目フライ

ヒラメは、洋食でも大活躍します。中でもフライは、街の洋食店の人気メニュー。塩胡椒したヒラメのフィレに、小麦粉をまぶし、溶き卵をくぐらせ、パン粉をつけて揚げます。衣の香ばしさと、中のジューシーさが絶妙のコントラストをみせます。上品な白身魚は、揚げることによって甘味が増し、非常に旨いです。

ムニエル

平目ムニエル

一方ムニエルは、フレンチの定番ですね。塩胡椒したヒラメのフィレに、小麦粉をまぶし、バターでじっくり焦がさないようにソテーします。衣で誤魔化さない分、ヒラメの旨さがストレートに出ます。うま味がありながら上品なヒラメは、ソースによっても様々に表情を変えるので、料理人の腕の振るいどころです。

その他

煮もの(兜、切り身)、焼きもの(塩焼き、魚田、皮焼き)なども旨いので、いろいろ試してみるのも楽しいと思います。

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