関東人も食べてみるべし 山で獲れるハモは梅雨と晩秋に2度旨い

梅雨と晩秋に旬を迎えるハモ。関東では関西の1割も消費されないという、典型的な西高東低冬型の気圧配置食文化の魚です。

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目次

沿岸に棲む大型肉食魚

ハモはウナギ目ハモ科に属します。同じウナギ目にはウナギ科、アナゴ科、ウツボ科が属しますので、大きくはウナギ、アナゴ、ウツボなどの仲間と言えます。

沿岸部に棲息し、体長は、1mから大きいものでは2mを超えます。雄は成長しても70cm前後、雌の方が遙かに大きくなります。雌は赤銅色なのに対して、雄は黄色がかった青です。夜行性で、小魚、イカ、タコ、エビ、カニなどを鋭い歯で捕食する肉食魚です。獲れるのは比較的暖かい紀伊半島よりも南なので、関西でなじみの深い魚です。

身が大きい雌が特に高価です。主な産地は愛媛、兵庫、大分、熊本、徳島、山口、和歌山、長崎など。紀伊水道、瀬戸内海、九州地域が中心です。かつて最高とされていた瀬戸内ものは最近減り、代わりに韓国からの輸入ものが多く市場に出回っています。国産に比べても韓国産は遜色無いどころか、高評価する料理人もあるほどです。その他、北朝鮮や中国ものは、骨が堅く皮も厚いのであまり高値ではないようです。

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ハモの旬の時期はいつ?

ハモの旬は、年に2度あると言われています。

1回目の旬は、6~7月です。気温が高くなり活発に活動する時期で、豊かな栄養を含んだ梅雨時の水を摂って旨くなります。この時期のハモは、白身魚らしいさっぱりとした淡白な風味です。

8月になると産卵期を迎えます。産卵後はやせてしまい、風味が落ちます。

2回目の旬は、産卵後の晩秋(10~11月)です。食欲が旺盛で、冬眠に備えたっぷり栄養を蓄えるため、濃厚な脂の味わいが特徴です。さまざまな秋の味覚が登場する時期でもあり、中でも松茸の土瓶蒸しに入れられるハモは絶品と讃えられ、この時期のハモは「松茸鱧」とも「落ち鱧」とも称されます。

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内陸の都が育んだ鱧料理の文化

ハモは、大阪の天神祭など、関西ではなじみのある魚です。

中でも特に愛されているのは京都で、ハモの食文化は京の人々の創意工夫の賜物と言っても過言ではありません。現在も、ハモの国内消費の40%以上が京都市だとのことです。京都で7月16、17日に開催される祇園祭と言えばハモ料理で、祇園祭は別名「鱧祭」とも言われています。中には、お囃子を聞くと鱧が喰いたくなるとか、その逆とか、パブロフな人も大勢いるらしいです。

さて、なぜ夏の京都にハモなのでしょうか?

交通手段の発達する以前は、京都盆地まで「担ぎ」と呼ばれる行商人が、主に明石、淡路島、また若狭から鯖街道を南下し、魚を運んでいました。夏の炎天下ではほとんどの魚が死んで腐りますが、獰猛で生命力の強いハモだけは産地である淡路島などから生きたまま京都に届けられ、夏場を支える唯一の鮮魚として重宝した、という訳です。

その生命力は凄まじく、生き締めの後も指を噛みちぎる程です。また、「京都の鱧は山で獲れる」という笑い話があります。行商人が京都に運ぶ途中、元気のいいハモはしばしば逃げ出し、皮膚呼吸だけで24時間以上生き続け、土にまみれて見つかるため 「山には鱧がいる!」となったそうです。真偽は定かではありませんが、生命力の強い魚を食べると精が付くという考えもあって、京都ではハモが好まれたようです。

しかし鮮度がクリアできても、最大の難関は、頭から尾までびっしり生えている小骨です。そのままではどうしても小骨が口に残り、いや突き刺さります。試行錯誤の結果、 骨切りという技法が編み出されました。京都には、このユニークな調理法を認める土壌があったようです。骨切りとは、皮一枚残して身の骨を断つ超絶技法。包丁の目を一寸(約3センチ)の間に24切れ入れられれば一人前の板前、と言われています。凄い世界です。

こういった様々な創意工夫により、京都の夏の魚 「鱧」 が定着したのです。

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万能の食材を召し上がれ

脂質、ビタミンAが多く、味が濃厚な白身。湯引き、汁もの、煮もの、焼きもの、揚げものなど、食材として万能で、関西では「鱧尽くしご膳」が夏の定番です。ああ堪らん。

湯引き(ちり、落とし)

生食より一般的な食べ方です。骨切りした身を湯(あるいは昆布出汁や酒)に落とし冷水で締めたものを、梅肉やからし酢味噌でいただきます。関西の夏ならではの味覚で、大阪では「ちり」、京都では「落とし」といいます。

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潮汁

アラ(中骨)を昆布出汁で煮だして酒と塩で味つけしたもの。もし骨切りしたハモが手に入り湯引きしたら、その汁は絶対に捨てずに利用しましょう。ハモの身を一切れコンロで炙り、碗種として浮かべて、白髪ネギを添えると、堪らなく旨み豊かで癒やされる味覚の汁が完成します。

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ぼたんはも

上記潮汁の応用編です。炙った骨と昆布で出汁を取り、酒と塩で味つけして吸地を作っておきます。骨切りした身に葛粉をまぶし、湯に落として碗種にします。葛の滑らかさと、脂ののったハモの味わいが口の中で蕩け、非常に旨いです。

唐揚げ・天麩羅

骨切りした身に片栗粉をまぶして唐揚げ。衣をつけて天麩羅。表面はさくっと、中はしっとり。上品な甘みと香ばしさ。ビールに最高に合います!

鱧すき

大阪には「泉州玉葱が出たらハモも出る」という言葉があります。泉南や和歌山県北部でとれるハモと、その年に採れ乾燥が終わり出荷が始まるタマネギ。この旬の食材2つを合わせて作るすき焼きです。醤油、砂糖、酒などで味付けします。酒の肴にも、ご飯にも合います。

鱧しゃぶ

ハモの旨さを丸ごといただくには、やっぱりしゃぶ! 夏だって、骨切りの身から真子、白子、浮き袋、胃袋、肝まで何でも鍋に投入し、ひたすら食するのです。至福の時間。最後は当然雑炊です。

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如何でしょうか。

近年「骨切り機」が開発され(たからかどうか判りませんが)、関東でも骨切りハモのサクが魚屋にも並ぶようになりました。

こんなに美味しい食材を知らないのは、モッタイナイです。

是非夏の味覚を味わってみてください!

コメント

  1. debux2 より:

    汗をかきかき食べる湯引き鱧+ビール、外を通る山車、夏の風物詩ですね~

  2. Sakana_Boss より:

    ハモ。いいっすねー。
    (どこが?って声も聞こえますが)
    そう、風物詩なんすよ。花火・金魚・かき氷。大人はハモもくわえちゃおうゼ。
    職人さんの骨切りの技術は、シャビのスルーパスに通ずるエレガントさがあります。
    そのテクニコを舌で味わう。
    関西主体の食だが、粋を存分に感じれる。
    オツだね。

  3. souxouquit より:

    debux2さん!
    風物詩というか、鱧は夏を感じさせる魚の筆頭ですね。

  4. souxouquit より:

    Sakana_Bossさん!
    そうですよね。リズムよく鱧を骨切りする匠の技は、それだけでうっとりするぐらい美しいですよね。

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