働く人14,000人。
訪れる購買者28,000人。
入場車両19,000台/日。
ピーク時の取扱量は3,200t/日、金額にして30億円。
世界一のフィッシュマーケット、知っているようで知らない築地市場を捉えたTSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)。
驚異の映像を通して、日本の食文化を再認識しましょう。
全ての日本人必見の映画です。
【写真出典】TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)
目次
唯一無二のワンダーランド
日本橋から移転されて80年。
築地市場は、長年に渡り日本の食文化を支え続けてきました。
春夏秋冬の旬の水産物、移りゆく風景。
報道規制の厳しい市場内で一般立ち入り禁止のエリアを初めてフィルムに刻み付けたこの映画は、豊洲への移転が決まった築地の姿を、リアルに、そしてドラマティックに切り取った「優れたドキュメンタリー」とも言えます。
料理評論家の山本益博氏が「世界一じゃないです。世界唯一、オンリー・ワンです。あれに匹敵するものは世界中に一件もない」と語るとおり、築地は唯一無二の「ワンダーランド」。
レストラン・ジャーナリスト犬養裕美子氏は「魚の集積地でありつつ、魚を含めた『情報』が集まって来る場所」と、築地の本質を指摘しています。
【写真出典】TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)
日本の食文化を支えた魚河岸を広角で捉える
日本の食文化の舞台裏をクッキリと浮かび上がらせるのは、ビジュアルの力だけではありません。
築地で働く人々はもちろんのこと、すきやばし次郎、鮨さいとう、㐂寿司、ESqUISSE、noma、道場六三郎氏など名店の料理人、文化人、評論家など、食のプロ150名にインタビューを敢行し、それぞれの視点で世界一の魚河岸TSUKIJIを語らせたことが、この映画に奥行きを与えています。
情熱、誇り、志、技について、築地に集うひとりひとりに問いかけることによって、職人気質とプロ意識を浮かびあがらせます。
このように多角的に俯瞰して捉えなければ、この巨大市場の全貌は明らかにならず、単なる観光ガイド映像の域を出なかったことでしょう。
その意味で、DVDの映像特典にこそ、この映画が稀有なドキュメンタリーたりえた真髄があります。
【写真出典】TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)
多次元的に「旬」を見極めるプロの目
現在の築地には、北海道から沖縄、そして海外からも多くの海産物が集まってきます。
南北に長い日本各地のそれぞれの地域から、旬を迎えた魚が時間差で集まりますから、結果的に「常に魚は在るものだ」というような錯覚を覚えますが、それは大きな勘違いなのです。
映画でも「海の中にカレンダーや地図はない」と語られていましたが、餌の小魚を追って回遊する魚の位置は日々変わるし、もちろん温暖化などの大きな環境変化の影響も受け、海水温が1度違えば魚の産卵時期も変わります。
また、漁法や船の性能の進化によって、漁場自体も近海から遠洋まで、選択の幅が大きくなってきています。
そういった変動を理解した上で、時間軸、空間軸、温度軸などによって構成される多次元世界を想像し、それに照らして目の前にある魚の状態を評価・吟味できるのが築地のプロなのだ、と痛感します。
そして「旬」と呼ばれるものは、「走り」「盛り」「名残」というフェーズも意識した、季節感の全てを包含する概念なのだろうと理解しました。
魚をよく知り鯛と思ってDVDを観はじめましたが、観れば観る程「わからない世界だ!」と感じます。
食文化を支えてきたプロフェッショナルによる、高度に細分化された専門性あふれる市場の役割を覗き見するたびに、眩暈にも似た感覚を覚えます。
これほどまでに多くの要素が複雑に絡む「旨さ」の世界の奥深さは、もはや自分のような素人の及ばない領域にあるのだと、あたりまえのことを感じさせられます。
【写真出典】TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)
江戸前の仕事
山本益博氏が「関西はデパート、総合職。煮炊きするということは両方できなくてはならない。割烹の割は包丁、烹は御鍋、総合芸術。東京はブティック、専門職。寿司屋さんは何十年も寿司だけ、天麩羅屋さんは何十年天麩羅だけ、一つのものを深めて行く。総合職は料理人と言って、専門職は職人。職人を育て上げた食文化の礎が築地」と語っています。
関西と東京の食文化の違いを、的確に言い表していると思います。
冷蔵や輸送の技術が未熟だった時代は、貴重な食材を長く味わえるよう、如何に手を加えるかが重要でした。
その「ひと仕事」、つまり、煮しめる、酢でしめる、醤油に漬けるなどの職人技が「江戸前の仕事」として洗練され、昇華していったのだろうと思います。
【写真出典】TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)
クラウドファンディングによる文化のアーカイブ
DVDでは、オリジナルエンドロールにて「クラウドファンディング支援者」が紹介されます。
そう、この映画は、2人の女性の世界一と呼ばれる築地市場と日本食の文化を映画に残すという想いに端を発し、そのこころざしに賛同した、355人からの9,290,000円の支援(制作資金調達)のおかげで実現した企画なのです。
【写真出典】Ready for「築地ワンダーランド」プロジェクト
クラウドファンディングのプラットフォームはReady for。
ちなみにこの金額は、過去1,000件以上のReady forプロジェクトの中で、達成額2位なんだそうです。
クラウドファンディングというとても「今どき」な手法を使って、「食文化の伝統」をアーカイブするというプロジェクト。この点にも個人的にはグッと来ました。
働くことの意味をも問いかける作品
AIにほとんどの職業がとって代わられると騒がれる昨今、脅かされる専門性と職人性は、何も食品関連業界に限ったことではありません。
- みんながライバル、だから結構騙し合いがある
- 売り買いは闘いだと思うんです
- 築地は人間を売ってるのよ、魚を売る前にその人間に惚れて買いに行くのね
映画の中で語られるこういった台詞は、単なる職人の証言という次元を遥かに超え、日本人にとって「働くこと」とは何か? という問いかけに対する本質的な答えを孕んでいるような気がしてなりません。
個人的には、社会人になりたての息子にみせてやりたいと思っています。
魚を愛するあなたにぴったりの映画
この映画を、少しでも多くの日本の人に観てもらいたいと思います。
築地で働く人たちの顔が浮かび、きっと魚が更に旨く感じられること請け合いです。
そして、食文化とは何か、次の世代にどう継承していくべきなのか、ということに対し、この市場移転のタイミングで、考えるきっかけにしてもらえたらいいと思います。
映画製作に何の関わりもない私が、こんなことを言うのは可笑しいでしょうか?
食文化の恩恵を享受する消費者としては、私自身も立派な当事者ですから、ひとつも可笑しいハナシではないと思うのです。
コメント
素晴らしい!
debux2さん!
素晴らしいのは、映画の方です。