ハマグリは、日本人と最も縁の深い貝と言っていいでしょう。ところが現代では、日本固有種である本ハマグリは絶滅に瀕しています。
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日本人とは縁の深い蛤
古くは日本書紀にも記述がみられ、縄文時代の貝塚から最も大量に出る貝(何と80%)は、アサリでもシジミでもなくハマグリだそうです。
ハマグリの貝殻の大きさや蝶番の形は、それぞれ異なります。「貝合わせ」として平安時代の貴族の女性が遊んだり、夫婦和合の象徴として嫁入り道具にも使われたりと、日本人はその特徴をよく理解してきました。非行に走ることを「ぐれる」と言いますが、この語源も「グレハマ」すなわちハマグリの貝殻を逆さまにしても合わないことから来ているんです。知らなかった!
春の季語にもなっているように、ハマグリは特別に旬を感じさせる貝です。また、結婚式、正月、桃の節句などのおめでたい席に欠かせない「縁起物の食材」でもあります。
ハマグリの生態
ハマグリは、植物プランクトンや有機物などを入水管から海水ごと取り込み、漉し取って食べています。1年で2㎝、5年で5㎝~になり、最大で10㎝位になります。寿命は7~10年と言われています。
産卵期は6月~9月。産卵前の身が太る春が旬です。水温の下がる冬には成長は止まりますが、栄養分が蓄えられ旨味は増しています。古くは、旧暦の雛祭(現在の4月)が食べ納めとされていました。
ハマグリはアサリやシジミに比べても汚染に弱く、環境の変化には敏感です。逆に、アサリやシジミにはない、驚異的な移動能力を備えています。1~3mにも及ぶ粘液の紐を分泌し、潮の干満を利用して、分速1mもの速さで移動すると言われています。
天敵はツメタガイです。ツメタガイはエスカルゴやカタツムリに似ている肉食の巻貝で、殻ごと二枚貝を覆い尽くし、酸性の液を分泌し殻を溶かして穴をあけ、そこから中身を食します。砂浜に打ち上げられた二枚貝の殻に2㎜程の穴があいていれば,それはまずツメタガイの仕業です。
外来種に押される固有種
日本で獲れるハマグリは、本ハマグリ(総称としてのハマグリと区別するため「本」を付していますが正確には「ハマグリ」、Meretrix lusoria)・チョウセンハマグリ(Meretrix lamarckii)・シナハマグリ(Meretrix pethechialis)の3種です。
ちなみに、「白ハマグリ」としてあたかもハマグリの一種のように流通している貝はホンビノスガイ(Mercenaria mercenaria)といい、ハマグリとは属も異なる全く別の種です。
シナハマグリ
日本生態学会の定める、特に生態系や人間活動への影響が大きい外来種のリスト「日本の侵略的外来種ワースト100」にも指定されている外来種です。現在日本で流通しているハマグリの大部分は、中国・朝鮮半島産のこの種です。最近は、輸入したシナハマグリの稚貝を日本の海岸に撒き、育ててから収穫して国産として売るケース(1969年に三重県で開始された「蓄養」)も多く、「国産のシナハマグリ」も相当量出回っています。
チョウセンハマグリや本ハマグリに比べ旨みは少なく、貝が開いた際、蝶番が紫なのが特徴です。身は柔らかく、身崩れするものあります。
チョウセンハマグリ
朝鮮からの外来種ではなく、元々日本〜朝鮮半島に広く分布する固有種です。茨城県以南の波の荒い外洋に面した砂地が棲みかです。国内産で、九十九里や鹿島灘などの外洋に面した場所で「地蛤」として流通しているのは、この種です。特徴は何しろ大きいこと。100g超え、10cm超えの個体もあります。厚い貝殻は光沢があり、白い碁石にも加工されます。
本ハマグリほどの身の柔らかさはないものの、旨みはシナハマグリよりずっと強く、大きいので高値で取引されることも多いです。
本ハマグリ
固有種で、内湾汽水域の干潟に棲息します。寿司ネタや煮蛤の「江戸前」として有名なのもこの種です。1960年代には年間1万t超も獲られていましたが、干拓工事や環境汚染の結果、激減しました。近年では年間100t程まで落ち込み、2012年には環境省第4次レッドリスト絶滅危惧Ⅱ類(いわゆる絶滅危惧種)にも指定されました。
甘み、旨み、身の柔らかさ共に最高と言われています。市場でも超高級品として扱われています。
溢れ出る旨みとプリプリ食感を堪能
ハマグリは、鉄分、ビタミンB1、ビタミンB2を含み、貧血予防に効果的とされています。また、カルシウムやマグネシウム、リン、亜鉛などのミネラルも豊富です。
ハマグリの旨さの秘密は、含有される「うま味成分」のバランスにあります。グルタミン酸やタウリン等のアミノ酸に加え、酒のうま味成分と同じコハク酸も含まれています。特に旬のハマグリは殻一杯に身が詰まっており、旨さは格別です。また、プリプリとした食感も特徴です。
おすすめの食べ方は、お吸い物・焼きハマグリ・酒蒸しなど。ちょっとした料理のコツをお教えします。
下ごしらえ
調理の前には「砂抜き」をしたほうがいいでしょう。室温の塩水に入れますが、その際容器を新聞紙などで覆い砂の中同様暗くすること、折角吐いた砂を再度吸わないよう笊で底上げするのがコツです。長時間塩水に浸しておくと貝が弱って味が落ちるので、2~3時間で上げます。砂抜きが終わったら、貝同士をこすり合わせて洗います。
この状態で直ぐに調理するのがベストですが、どうしても保存したい場合は、少し湿らせた新聞でくるみ、ビニール袋で包んで密封せずに冷蔵庫へ。密封すると呼吸できずに死んでしまいます。貝は水から出されると殻を閉じて身を守り低温になると休眠するので、これで数日は生きたまま保存できます。
お吸い物
ハマグリ特有の濃厚な出汁で、水・酒・塩だけでとてもおいしく出来ます。
冷たい状態から弱火で出汁を取る、これが大事なポイントです。灰汁(アク)をすくい、沸騰して貝の口が開いたら、火が通ったハマグリを一度取り出します。そうすれば身が柔らかいまま仕上げることができます。
焼きハマグリ
ここでも、身が固くならないよう焼き過ぎないのがポイントです。また、靱帯(蝶番の外側にある黒い突起)を切っておくと口が開かず、旨みたっぷりの煮汁が流れ出すのを防ぐことができます。
如何ですか。
娘さんや意中の女性と一緒に、春の訪れを愛でてみてはどうでしょう。
コメント
殻の色やもんよう(もよう?)の違いって、どうしてできるのでしょう・・・
意中の彼女って誰かしら〜?
明日は雛祭り
ちらし寿司と蛤のお吸物ですねん!
debux2さん!
ハマグリの模様って、ハッキリしているものが天然でぼやけているのが輸入物、という説も聞きますが、本当のところよく解明されていないそうです。カオス理論の「バタフライ効果」だとの説も聞きますね。
candyさん!
パーソナルなご質問にはお答えできかねます(笑)
雛祭り、ハマグリのお吸い物で楽しんでください♪