日本人に馴染みの深いサケ。
その数奇な運命?は、日本の漁業の変遷そのものです。
目次
サケの歴史は日本の漁業の歴史
サケの飽きのこない上質な脂と旨みは、万人好みと言っていいでしょう。
まさに日本の食文化を支えてきた魚です。
各地の風土記にはサケ漁の記載があり、古代の遺跡からも証拠が出てきます。
江戸時代には献上品として珍重され、また、冷蔵技術が発達する前から「塩蔵」によって日本人の蛋白供給を担ってきました。
北洋サケマス漁業から母船式サケマス漁業へ
かつては、産卵のために生まれた川に戻るサケの習性を利用し、河口や河川だけで獲っていました。
ところが、江戸時代後期になると河川を出て海洋に乗り出し始め、先ずは近海で、ついには樺太、択捉、国後、カムチャッカ、アリューシャンなどの北洋で漁をするまでになっていきました。
こうして始まった「北洋サケマス漁業」は、当時のソ連領海内で操業していたため煩雑な交渉手続が必要で、利害対立によって時には紛争にも発展しました。
度重なるトラブルの後、公海で操業できる「母船式サケマス漁業」が盛んになります。
母船式サケマス漁業は、太平洋戦争前の最盛期には、従事者2万人超、捕獲1億尾超の一大産業でした。
ところが戦争激化につれ操業が難しくなり、戦後は漁獲規制が年々厳しくなるなどの理由で更に衰退し、1988年の出漁を最後に終了しました。
世界屈指の漁獲量を誇った「サケマス輸出国」日本は、今や自給率50%に満たない「輸入国」になってしまいました。
サケマス養殖の歴史
日本人は、サケマスの養殖にも古くから取り組んできました。
ニジマスの内水面(淡水)養殖が開始されたのは、1877年(140年前!)と言われています。
当初は湖沼への放流が目的でした。
食用ギンザケの養殖が本格化したのは、1970年代後半からです。
しかし低価格輸入ものに押されるなどの理由で、1991年をピークに減少に転じます。
その後も魚価の低迷から不振は続き、近年では1万トン程まで落ち込みました。
養殖技術の「輸出」と海外生産
日本では衰退したギンザケ養殖ですが、実は、世界の裏側で生きています。
南米チリでの養殖に技術協力したのは、日本の企業でした。正確には、日本産のサケを南半球に移植した、と言うべきかもしれません。
1978年にチリ政府の協力のもと開始されたギンザケ養殖事業は、養殖適地が豊富なこと、養殖に適した海況・気象などの自然条件、魚粉や魚油といった飼料原料の大量入手が容易なことなどの利点を活かし、急速に発展しました。
現在、年間25万トン前後日本に輸入されるサケマスのうち、60~70%に当たる量がチリで「生産」されています。
【出典】農林水産省 農林水産物輸出入概況
国内を流通するサケマスの現状
近年、国内で流通しているサケマスの内訳をみると、国内生産量が減少しています。
その割合は、2010年に50%を割り込み、2015年現在41%です。
一方、気になる天然と養殖のバランスですが、2015年現在、マクロで「ほぼ半々」の状態です。
コストの安い輸入養殖ものに対抗し、天然ものが主体の国内漁獲が踏ん張って拮抗している、という図式です。
【出典】農林水産省 農林水産物輸出入概況、農林水産省 漁業・養殖業生産統計
魚種などその内訳
国内生産の9割ほどは天然ものですが、その内訳は、シロザケが7割以上、次いで2割ほどのベニザケです。
実は、日本で豊富に水揚げされるシロザケは一部アジア諸国などに輸出され、加工されて世界に再輸出されています。
その一部は日本にも逆輸入されます。
一方、輸入されるサケマスの9割が冷凍もので、その状態は、魚体そのままの「ラウンド」から三枚おろしの「フィレ」まで、様々です。
代表的な魚種は、チリからのギンザケやマス、ロシアやアメリカ合衆国からのベニザケなどです。
輸入ものの内で生鮮冷蔵ものは、主にアトランティックサーモンです。
ノルウェー産が約9割と圧倒的で、ほとんどが空輸されます。
サケマスの食べ方
本来日本では、サケマスを生で食べる習慣はありませんでした。
これは、サケマスがアニサキスやサナダムシに寄生されていた場合、人体感染の恐れがあったからです。
ところが、回転寿司などでも人気のネタ「トロサーモン」は、生で食べますね。
これは近年、寄生虫が存在しない配合飼料で養殖する品質管理技術が確立されたから可能になったのです。
魚種はアトランティックサーモンやマスで、輸入ものです。
アトランティックサーモン(大西洋サケ)、マス(トラウト)
たっぷり脂を含んだアトランティックサーモンやマスは、刺身・寿司などの生食の他、スモーク、焼きものなど、幅広い用途に用いられています。
ギンザケ
養殖の普及と成長の早さから安価であるにもかかわらず、ギンザケは脂がのっていて美味です。
塩鮭、切り身、コンビニおにぎりの具などによく用いられます。
シロザケ(アキザケ、アキアジ)
シロザケは焼き物、フレークなどに用いられます。これを塩蔵にしたものが「新巻鮭」です。
アキアジ(アイヌ語の「アキアチップ」から転じた)やアキザケとも呼ばれるので旬が秋と思われるかもしれませんが、秋は産卵の時期に当たり、身の脂や栄養は落ちます。
生殖巣に栄養をとられず美味なのが、季節外れの春に北海道沿岸で獲れる「時不知(トキシラズ)」または「時鮭(トキザケ)」と呼ばれるシロザケです。
一方シロザケの卵(イクラ)は、サケマス類の中でも最高に美味しいとされています。
ベニザケ
主にスモーク、焼き物、フレークなどに用いられるベニザケは、養殖ができません。
回遊のおかげで身が引き締まり、脂はきつくなく、旨味が濃厚です。
身の味としては最高とする人も多い種です。
船籍や荷揚げ港によって日本産、ロシア産、アメリカ産と区別されますが、漁場は北洋で共通です(もちろん近海ものを除いたハナシですが)。
ああ美味しそうな切り身!
用途や気分に合わせて楽しみましょう
ここでは、軽々しく「天然が最高」だとか「輸入は危ない」だとかと声高に叫ぶつもりはありません(参考にしたブログ:その1 その2)。
ただ、皆さんがサケを買う時に、魚種は何で、産地が何処で、冷凍なのか生なのか、そういうことを少し意識するだけで、味わいもグッと変わってくるのではないかと思うのです。
先達の努力に感謝しつつ、TPOに合わせてサケの味覚を楽しめたらいいですよね。
コメント
毎日食べても飽きのこない魚の代表格ですね。塩をふいた焼き切り身にはヨダレが垂れそうです。
塩蔵が主流だった理由は、船に冷蔵設備がなかったからと聞いていますが、鮭本来の味とマッチしたのでしょうか・・・
一夜干しとか一塩も含めて、先人の知恵なのでしょうね。
debux2さん!
「毎日食べても飽きない」まさにそのとおりですね。
一塩することで水分だけを除き、旨みを凝縮させる、ということなのではないでしょうか。