英名でもFlying Fish。胸ビレを広げ、水上をグライダーのように滑空するトビウオは、別名「アゴ」とも呼ばれる旨い魚です。
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時間にして1分、距離にして数百mも滑空
カジキマグロやシーラなどの天敵から逃げるために、水上に飛び出して、海面スレスレを猛スピードで滑空します。風に向かって跳ね上がり、大型船の甲板にも飛び込んで来ることもあります。飛翔するトビウオの、見事な映像をご覧ください。
【出典】BBC Flying fish hunt – The Hunt: Episode 4 preview – BBC One
トール・ヘイエルダール著、コン・ティキ号探検記には、トビウオに関してのユニークな記述があります。
昼夜別なくぶつかって来るトビウオに、乗組員は辟易していた。ある日、調理準備中にトビウオの群れに直撃し、フライパンにトビウオが飛び込んできた。試しに食べてみるととても旨く、思わず怒りを忘れてしまった。それ以来、夜間に筏上に落ちているトビウオを拾うことが一日の始まりの日課となり、旨い朝食にありつけるようになった。
トビウオの主な料理
刺身
新鮮なものは、刺身にするととても旨いです。イワシやサンマとは違い、脂が少なく、風味と旨みが強い魚です。また、青魚特有の生臭さもほとんどありませんし、血合い際などもかえって旨みがあります。辛子酢味噌和えや、タタキにして、ネギやショウガなど香味野菜と胡麻油で和えても、実に旨いです。房総半島では「なめろう」の材料として使われます。
焼き物
塩焼きの時には、翼のような胸鰭を大きく広げてたっぷりと塩を塗りこみ、飛んでいる姿で焼き上げましょう。実に絵になります。熱を通すと、独特の旨みが際立ちます。ただし、脂が少なく、焼きすぎるとパサパサになってしまうので注意してください。
秋田では、魚醬(しょっつる)と酒を合わせたものに漬け込んで少し干し、焼き上げる「魚醬焼き」が知られています。魚醬の風味を加えると、単なる塩焼きより味わいが深くなります。
揚げ物
フライや唐揚にしても美味しく食べられます。
煮付け
脂が少ないので、一般的には煮付けに向いていないと言われますが。甘露煮(佃煮)にすると旨いです。
親が旨けりゃ子も旨い
トビウオの卵は、飛子(トビッコ)と呼ばれる寿司ネタです。軍艦巻きにたっぷり乗っけると、プチプチした食感も楽しい一品になります。また、黒っぽく着色してキャビアの代用品として珍重する向きもあるようです。
強烈な匂いの「くさや」
くさやというのは、魚醤に似た独特の匂いや風味をもつ発酵液に浸潤させた、魚の干物です。新島や八丈島など伊豆諸島の特産品として知られますが、この原料は、ムロアジ類、トビウオ類です。
独特の匂いが強烈で好き嫌いが分かれますが、塩辛いながらもまろやかさがあり、近年は体によい食品として注目されています。
出汁が絶品に旨いんだ実は
トビウオをアゴと呼ぶ日本海沿岸や九州では、鮮魚としてよりも練り物や出汁の材料として利用されることが多いです。つみれにすることで固くなるのを避け、汁ものなどに美味しく使えます。また、アゴを原料とした竹輪は「あごちくわ」と呼ばれ、鳥取県・兵庫県の特産です。島根県では「アゴ野焼」と呼ばれる、形や食感が竹輪に似ているものの製法が異なる練り物があります。
素干しした「アゴ干し」や、それを破砕した「トビ節」、火であぶって焦がした「焼きアゴ」は、みそ汁や料理のダシをとるために使われます。
山形県では天日干しと炭火による「焼き干し」が作られており、酒田のラーメンの出汁は、ほとんどがトビウオです。
九州北部では、長崎県五島町の「五島うどん」や平戸市の「あごだしラーメン」のように、トビウオの出汁入りつゆで麺が多く食べられています。長崎県や福岡県の醤油・調味料メーカーは「あごだし」を商品名に冠した粉末だし・めんつゆ・だしパックを商品化し、これが今や全国区になっています。最近のこうした「アゴ出汁」ブームで、トビウオの価格が3年前と比べて約7.5倍になったとも報じられました。
【出典】 平成28年度 水産白書
日本近海のトビウオと漁業
トビウオ漁は、刺網と定置網が水揚げ量の大部分を占めます。
カツオ、サンマなどと同様、季節回遊をする魚で、春先から夏にかけて日本付近まで北上してきて産卵し、秋に南下します。日本で漁獲量が多いトビウオは、いずれもハマトビウオ属に含まれるハマトビウオ、ホソトビウオ、ツクシトビウオ、ホントビウオなどです。種類により、漁の時期、分布が異なり、また味や用途も違います。
3~4月の春先に最初に関東などの市場に出回るトビウオは「春トビ」と呼ばれ、八丈島などからのハマトビウオです。最も大型のトビウオで味もよく、「くさや」の材料に使われるのはこの種です。
それに続いて、初夏に北上してくるのがツクシトビウオ、ホソトビウオなどです。これらの種は、太平洋側とともに、日本海側にも北上し、九州北部、山陰、北陸地方などでも漁獲されます。ホントビウオ、アカトビウオ、オオメナツトビウオ、ホソアオトビなどもこの時期から夏にかけての種類で、それらを総称して、関東では「夏トビ(あるいは本トビ)」と呼ぶことがあります。
ということで、種類によっても地域によっても違いますが、トビウオの旬はおおむね、初夏~初秋。まさに夏の魚と言えます。
目利きと調理のポイント
トビウオを選ぶときは目が黒く澄んでいてみずみずしい物、翼のようなヒレが干からびていないものを選んでください。通常、鱗は漁獲される際にほとんどはがれていることが多いです。
トビウオも他の魚同様、新鮮なものはエラが鮮紅色です。鮮度が落ちるにしたがって赤みが抜け、ピンクからベージュになってきます。
特徴のある翼のようなヒレを盛り付けに活かしたいところです。とはいうものの、少し小骨が多いので、食べやすさを優先するなら大きいものを、三枚におろし、小骨まで掃除してから調理する方がいいかもしれません。ムナビレを広げずに焼くのであれば、はさみなどで切り取ってから塩を振って焼きます。
背開き(すずめ開き)にするには手前板前さんの魚のさばき方に詳しいです。