今年の夏の「土用の丑」を乗り越えればそれでいいんですか?

耳を疑うニュースが飛び込んできました。

ウナギの稚魚の漁獲量の減少について、齋藤農林水産大臣(当時)は記者会見で「今年の夏の『土用の丑』の供給不足はない」と発言したというのです。
開いた口が塞がりません!

鰻重

目次

農水大臣の発言

このニュースを報じたNHKのweb掲載の全文を、ここに引用しておきます
(直ぐに掲載を止めてしまうので、魚拓をとっておきます)。

「ことしはウナギの供給不足に陥ることない」農相

2018年1月23日

ウナギの稚魚の「シラスウナギ」の漁獲量が極端に減少していることについて、齋藤農林水産大臣は、23日の閣議のあとの記者会見で、ことしの夏の「土用のうしの日」にウナギが極端な供給不足に陥ることはないという見方を示しました。

養殖ウナギの稚魚の「シラスウナギ」は今シーズンは漁獲量が減少していて、水産庁のまとめによりますと、国内の養殖池に先月入れられたシラスウナギは0.2トンと、前の年の同じ時期のわずか3%にとどまっています。

これについて、齋藤農林水産大臣は、閣議のあとの記者会見で「シラスウナギの漁獲量は年によって変動が大きいものだが、これまでのところ不調だ。海流など海洋の環境が影響していることが考えられるが、今後、回復するかどうか状況を注視したい」と述べました。

そのうえで、今後のウナギの供給については、「ことし出荷されるウナギは、前のシーズンに漁獲されたシラスウナギが育てられたものが多い。前のシーズンの漁獲量は平年並みだったので、極端な供給不足に陥ることはないのではないか」と述べ、ことし夏の「土用のうしの日」への影響は限定的だという考えを示しました。

鰻

農水大臣発言はいかなる点で問題なのか

いや呆れました。
この方、様々な意味で、大臣という立場に相応しくない発言をしていらっしゃいます。

ニホンウナギ絶滅の心配より、国民の「食べる権利」に忖度するのか?

前後の文脈がないので判断はしにくいのですが、国民の関心事に合った答弁をされているのかもしれないし、あるいは、メディアが「土用の丑」関連の発言を、必要以上に大きく取り上げただけなのかも知れません。
しかし百歩譲ってそうだとしても、ニホンウナギが絶滅危惧種に指定されている事実に全く触れないのは、あまりに意識が低すぎはしないでしょうか?

以前の記事にも書いたとおり、そもそも、ニホンウナギは、パンダやトキと同じ絶滅危惧種に指定されています。(【出典】水産庁 ウナギをめぐる状況と対策について

ここはせめて、

「シラスウナギが極端に少ない状況ですから、資源回復のためにもここ数年は鰻の消費を控えていただく努力を、国民の皆さんには敢えてお願いしたい」

ぐらいのことを言って欲しかったものです。

それに、今年はよくても、来年は? その次は?
こんな発言があるのは、「自分の任期中大過なく過ごせれば」とでも思っているからなのでしょうか?

「土用の丑に鰻を喰う習慣」をあまりに「鵜呑み」していないか?

これまた以前に書いたのですが、土用の丑の日はウナギの旬でも何でもなく、夏の売り上げが落ちこむ鰻屋から相談を受けた平賀源内が仕掛けた、セールスプロモーションが原因なのです。
科学的・論理的根拠のないこうした言説を、大臣自らがわざわざ口にするとは、どういう了見なのでしょう。

「今年の土用の丑の日は、牛でも喰いましょう」とは言えないまでも、

「そもそも土用の丑の日に鰻を食べなきゃいけない訳ではありませんから」

ぐらいのことを言っていただければ、「おっ、この大臣はモノが分ってるな」となったものを。

おそらく、知らないことだったんだろうと想像しますが、それにしても21世紀のこの時代に、情けないことこの上ありません。

鰻団扇

Fish Lovers Japanは無責任な態度に抗議します。

大臣である立場がどれほど影響力を持っているのかを考えた時、勉強不足で軽率な発言は、職務を全うしているとは言えません。
また、知恵をつける立場の農水省の役人も、普段から、絶滅危惧種の資源保護に対して危機感があるなら、大臣のぶら下がり取材の機会を、何故利用しないのでしょうか。
弛んでいるとしか思えません。

もう一者。
その発言をそのまま報道するメディアの責任も、重いと思います。
NHKは最近、激減しているシラスウナギの事実関係を追い、掘り下げていました。
「今回の大臣の発言には、絶滅危惧種であることや資源保護に対する前向きな発言はありませんでした」と何故報じられなかったのでしょう。

国民全体の意識の向上がなければ、絶滅危惧種の資源保護は前進しません。
諸外国から「日本は今夏に鰻が食べられればそれでいいのか?」と思われるのも心外ですし、何より、近い将来、無策のために鰻を喰う文化そのものが死んでしまうのは、耐えがたいことです。

Fish Lovers Japanは、その無責任な態度に、断固として抗議します。

【参考】関連のNHKニュース

ウナギの供給に影響か 稚魚のシラスウナギ 極端に減少[抜粋]

2018年1月19日

ウナギの稚魚の「シラスウナギ」は、漁獲量が極端に減少していて、消費がピークを迎える夏場以降のウナギの供給に影響が出ないか、懸念されています。

NHKが例年、漁獲量が多い県に問い合わせたところ、宮崎県が前のシーズンの同じ時期のおよそ2%、鹿児島県がおよそ1%にとどまっているほか、静岡県では0.04%、愛知県では0.02%にとどまっています。

また、水産庁によりますと、中国や台湾でも漁獲量が少なくなっていて、ほとんど輸入できない状態だということです。水産庁は「漁獲量が急激に回復する可能性もあるが、今後も少ないままだと需要期となる夏以降のウナギの供給に影響が出る可能性は否定できない」と話しています。

ウナギの稚魚 極端な不漁に 夏にも価格高騰の懸念[抜粋]

2018年1月21日

養殖に使われるニホンウナギの稚魚のシラスウナギが、日本と台湾の両方でこの時期としては極端な不漁となっています。

シラスウナギの生態に詳しい東京医科大学の篠田章准教授は「台湾でも不漁となっていることから黒潮の変化が原因とは考えにくく、ウナギの産卵場所や稚魚を東アジアに運ぶ海流に変化が起きた可能性も考えられる。稚魚の回遊が遅れているのか、稚魚そのものが少ないのか、春まで動向を見ないと判断できない」と話しています。

ウナギの研究に携わっている台湾大学漁業科学研究所の韓玉山教授は、NHKの取材に対し、「シラスウナギは、長期的に減少傾向にあるものの今シーズンは特に大きく減っている。著しい不漁は、シラスウナギの資源が消えつつあるという大きな警鐘だ。もし次のシーズンも今シーズンと同じようであればかなり危険な状態になる。管理の強化を急いで始めなければ、シラスウナギの前途は明るくない」と提言しています。

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