スルメイカは、日本列島の周囲を中心に広く分布します。漁獲量が最も多い魚介のひとつで、食用はもちろん、冠婚葬祭など日本人の生活に欠かせません。
目次
3系群で日本列島沿岸を回遊する
スルメイカ(Japanese common squid)の寿命は1年程で、雄より雌の方が大きく、外套長(胴部分の長さ)は30cm程にまで成長します。大まかに以下の3つのグループで日本の沿岸を回遊するため、産卵期が少しずつずれ、年間を通して市場に流通します。
秋期発生系群
東シナ海北部から日本海南西部で9~11月に発生し、主に日本海で成長し夏~秋にかけて漁獲対象となります。成長期が餌の豊富な春~夏に当たり、大ぶりなのが特徴です。日本海での漁獲の70%はこの系群です。
冬期発生系群
東シナ海あたりから九州北部で12~3月に発生し、黒潮にのって太平洋側をオホーツク近辺まで北上し、そこから一部はそのまま太平洋を、多くは津軽を通って日本海を東シナ海に向けて南下します。太平洋側での水揚げのほとんどはこの系群です。
夏期発生系群
主に日本海本州沿岸から九州沿岸、伊豆諸島周辺などで4~8月に発生します。成長期が冬に当たり小ぶりなのが特徴で、秋・冬期発生系群と比べると、資源量はかなり小さいです。
近年は記録的不漁
2016年のスルメイカの漁獲量は7万t弱で、過去30年で最低レベルまで落ち込んでいます。2017年上半期(1~6月)の実績も前年比8割ほどとなっており、今年の最終漁獲量も最低値を更新する可能性ありと見られています。
【出典】農林水産省 漁業・養殖業生産統計
2017年6月9日 NHK スルメイカが大ピンチ!
2017年8月29日 NHK いかめしも値上げ “世界同時不漁” の波紋
全国的なスルメイカの不漁が伝えられる中、思わぬ豊漁に沸く港があります。北海道の最北端、稚内です。北海道立総合研究機構 稚内水産試験場では、「詳しいことは分らないが、海洋環境によって稚内近辺に漁場が形成されている可能性がある」と話しています。
2017年9月5日 NHK 稚内 イカ豊漁で経済効果2億超
鮮度によって色が極端に変化するスルメイカ
釣れたては透明なものが、徐々に白っぽく(透明度のある白色)なり、次に黒っぽいワインレッドに変わります。鮮度が落ちると、また白く(透明でない乳白色)なり、もっと悪くなると、茶褐色に焼けます。乳白色以下は加熱用です。よく見極めましょう。
食べ方・料理法
その名のとおり、鯣(するめ)によく加工されますが、生食でも、火を通しても、旨いです。様々な料理を楽しみましょう。アニサキスの宿主ですので、生食に当たっては、十分に注意してください。
イカそうめん
スルメイカの胴を素麺状に細く切り、生姜醤油、麺つゆ、ポン酢などで食べます。発祥については、東京の人が乱切りに醤油をかけたのが始まり説と、「いかそうめん発祥の店」がある函館説がありますが、どちらが本当か分かりません。まぁ旨けりゃいいんです。
湯引き
ゲソは湯引きにするのがいいでしょう。少し加熱することで甘味がぐんと増します。80℃くらいの湯にさっとくぐらせ、氷水にとり、水分をよくきります。ここにミョウガ、生姜葱などの薬味を合わせます。手のひらサイズのバライカ(春のスルメイカ)や、成イカの胴で作っても、当然旨いです。
フリット、イカリング
スルメイカを烏賊素麺のように細切りにして小麦粉をまぶし、小麦粉、ビール、塩、少量の砂糖で衣を作り高温で揚げると、フリットの出来上がりです。またイカリングは、輪切りにしたスルメイカに塩胡椒して小麦粉をまぶし、小麦粉、卵黄、サラダ油を合わせた衣をつけ、パン粉をつけて揚げます。ビールのアテとして最強です。
イカ野菜炒め
中華料理の定番「野菜いため」のイカ版です。炒め物に使うイカとしてはアオリイカやコウイカなど肉厚で柔らかいモノが好まれますが、固めの食感のスルメイカは、にんじん、セロリなどと合います。フライパンに油、生姜・大蒜のかけらを入れて熱し、適宜に切った野菜、イカを同時に入れて強火で短時間炒めます。超簡単です。
天麩羅・かき揚げ
イカだけで天麩羅にするなら、アオリイカやコウイカなども旨いのですが、かき揚げにするなら固めの食感のスルメイカが、実は旨いです。昔から、江戸前天丼のかき揚げにはスルメイカが使われてきました。もどした鯣(するめ)や一夜干しを使っても、旨くできます。是非お試しください。
一夜干し
舐めると塩辛いぐらいの塩水を作り、15分程漬け込み、水分をよくきります。これを半日ほど干すと一夜干しの完成です。スルメイカを安い時に大量に買い込み、作ってしまいましょう。冷蔵で2~3日、冷凍すれば2~3ヶ月は美味しく食べられます。軽く炙って七味唐辛子マヨネーズで食べると、酒のアテに最高です。
煮いか
「塩いか」がケの保存食なら、「煮いか」はハレの料理です。本来は日本海でとれたスルメイカを浜茹でしたものですが、長野県、岐阜県では正月などに煮いかを食べる習慣があります。また、東京多摩地区、山梨県などでは、冠婚葬祭に、スルメイカと里芋などを煮た「煮しめ」が作られます。
塩辛
イカにもいろいろ種類がありますが、いわゆる「塩辛」が作れるのは、ワタが大きく味わい深いスルメイカだけです。本格的には、塩漬けにしたワタと塩をして干したゲソや胴と和えますが、個人的には、新鮮なワタを数時間酒と醤油に浸し、生のゲソや胴と和えてしまう簡易塩辛の方が好きです。塩分も控えめだし。土地によっては、ワタと一緒に墨も漬け込んだ「黒作り塩辛」というのもあるようです。
ごろ焼き・ワタ和えのホイル包み焼き
若しワタの鮮度がいまいちだったら、フライパンにワタとゲソや胴を入れて、炒めてしまいましょう。それがごろ焼きです。酒と醤油を加えてホイルで包み焼きにしても、もちろん旨いです。バーベキューでこれを作ると、酒飲みは狂喜します。
魚醬(いしる)
石川県など日本海側の地域では、スルメイカの内臓を塩漬けにして出てきた汁を魚醬(いしる)として加工するところもあります。本当は魚醬ではなく烏賊醬ですね。魚醬よりも甘味が強く、旨いです。
いかめし
本来は道南の郷土料理ですが、函館本線の駅弁で一躍有名になりました。スルメイカの胴の部分にもち米を詰めて、甘辛に煮上げたものです。最近ではレトルトパックで売っています。
いか焼き
お祭りの屋台で売っている「イカの姿焼き」も旨いんですが、ここでご紹介するのは阪神名物いか焼きです。
出汁、小麦粉、カットしたイカを練り合わせ、鉄板で挟んで焼くモチモチのソウルフード。さすが“粉もん”文化の大阪です。丸い「たこ焼き」とペッタンコの「いか焼き」、甲乙つけ難い旨さですね。
稚内だけでなく、早く「全国で豊漁!」の朗報を聞きたいものです。
コメント
大量に獲れて安価なので様々な調理方法が開発されてきたのでしょう。干しスルメも、余ったものの保存の為だったのでしょう。
しかし、今となってはなくてはならない食材の一つですね。
debux2さん!
本当にスルメイカが獲れなくなったら、どうやって自家製塩辛を造ればいいのか、途方に暮れてしまいます。。。
今夜、スルメイカと青梗菜の炒め物を四川料理のお店で食べてきました。こちらを読んでいたので、大切に噛み締めて頂くことができました。ありがとうございます。
隣にあとから来たグループは「すみませーん、スルメイカもう終わっちゃいました」と断られていたので、メニューの値段を急に上げられない以上、皿数制限してるんだなと実感したのでした。食べられてラッキー!
目薬さん!
ご愛読、ありがとうございます。
飲食店の現場も、仕入れの苦しさを抱えているようですね。早く豊漁に戻るといいですね。