最近、冬の日本海を代表する絶品の白身として、ノドグロは有名になりました。ところが例によって、ややこしい名前のハナシがあります。アカムツと同じ魚だ! いや違う! としばしば論争(大袈裟)が起こります。ここではその論争に終止符を打ちましょう。
目次
ノドグロとアカムツは同じ魚
アカムツ(赤鯥)は、スズキ目 ホタルジャコ科 アカムツ属の暖海性魚類で、別名ノドグロ(喉黒)と呼ばれます。標準和名はアカムツなんですが、最近ではノドグロの方がすっかり馴染みの呼び方になりました。
ところがヤヤコシイことに、喉が黒いからと言ってノドグロ以外の魚を「のどぐろ」と呼んだり、そもそもノドグロを別の名前で呼んだりすることが結構頻繁にあるんですね。例えば、
- 相模湾周辺では、ユメカサゴを「のどぐろ」と呼ぶ
- 千葉辺りでは、相模湾産のアジやソウダガツオを「のどぐろ」と呼ぶ
- 高知県の一部では、ノドグロを「きんめ」と呼ぶ
こういうことで、「ノドグロとアカムツは別の魚」と主張する人が居る、という訳なんです。
標準和名ではなく地方名「ノドグロ」が一般化した理由
ノドグロという呼び名は元々、北は山形県あたりから南は山口県あたりまで、日本海側の地方名でした。それが一般化(全国化)したのは、以下のような背景があってのことです。
- ブランド化し積極的に売り出した(特に島根県浜田市など)
- 島根県出身の錦織圭選手が、2014年全米オープン準優勝後の凱旋帰国インタビューで「ノドグロが食べたい」と発言した
- その後、錦織圭選手を起用したCMまで作られた ジャックスカード『のどぐろ』篇
ということで、ノドグロの呼称が一気に全国区になりました。
魚の名称は水産省がガイドラインを示している
ところで、名称について、誰も管理はしていないのでしょうか?
実は、「魚介類の名称のガイドライン」というものが、水産省によって2007年に制定されています(プレスリリース)。
生鮮食品は従来よりJAS法で「名称」や「原産国」表示が義務付けられていますが、この「名称」については、標準和名を基本としつつ、広く一般に知れた名称を記載しなさい、というハナシです。
現在ではノドグロが一般的になってきたため、アカムツと表記されることは稀です。ホッコクアカエビと言っても誰も分らないのでアマエビとか甘海老と書くのと同じです。
旬は晩秋以降
ノドグロは、水深100~200mの深海に棲みます。産卵期は6~10月なので、旬は産卵後の11月~春まで、ということになります。養殖技術が確立されていないので、全て天然ものです。
日本海や千葉県以西の太平洋側で獲れますが、韓国からの輸入ものも多いです。超高級魚で、生、近海、釣りものとなると1万円/kg超も普通です。底曳き網でとったものを干物にしたものはスーパーなどにも並びますが、これも結構いい値段がつきます。
小さくても味がいい「究極の美味」
鱗は柔らかく取りやすいです。皮は比較的しっかりして厚みがあり、旨さは皮目に沢山のります。骨は硬いので注意。
上質の白身で、脂は皮にも滲み出るほど多く、身全体に遍在します。熱を通しても硬く締まらないので、火を通す料理でも旨いです。
生食(刺身、皮霜造り、昆布〆、酢〆)、焼く(塩焼き、味噌焼き)、汁(潮汁、ちり鍋)、煮る(煮つけ)、蒸す(酒蒸し)など、いろいろ料理できます。
刺身・焼霜造り
水揚げ直後に鰓を切り血抜きして塩氷でしめた刺身は、脂が身に混在していて、適度な食感もあり、実に甘味と旨みが強いです。ノドグロは単に刺身でも結構なんですが、皮目の旨さも是非味わいトコロです。皮を少し炙るとまことに絶品です。
肝のとも和え
ノドグロの肝の旨さは最高ですが、それだけ食べると少しくどいので、刺身の端の部分や食感のいい尾に近い部分を、茹でた肝と和えます。湯引きした皮も添えるといいでしょう。甘味とほどよい食感の身が、が肝のくどさをやわらげ、非常に旨いです。
塩焼き
ノドグロの基本料理は、塩焼と言っていいでしょう。身自体が非常に旨いので、あまりごてごて手を加えなくても、皮ごと旨さをいただくことができます。口に入れるとふんわりととろけて消える脂と甘さ、身の光沢のある白さ、冬の焼魚の中で最高のご馳走です。
魚田(味噌焼き)
ノドグロを串に刺し白焼きにした後、味噌をつけさっと焼いて焦げめをつけると魚田(魚でつくった田楽)が出来上がります。脂が強い魚ですので、山椒味噌でも旨いですね。
ちり・潮汁
ノドグロを鍋に放り込んで、ちり鍋を作ってしまうのも結構です。実にいい出汁が出るので、味つけは酒と塩だけで十分でしょう。贅沢鍋ですね。
アラを昆布出汁で煮だして酒、塩で味つけすれば、潮汁の完成です。一匹買ってきて刺身に卸した後は、是非潮汁にしてみてください。骨やアラからでも十分に旨い出汁が出ますし、骨に付着する身までキレイに美味しくいただけます。
兜煮
刺身に卸したノドグロが十分大きい場合は、兜(頭部とかま)だけでも煮つけてみましょう。この部分の身は、甘辛い煮汁で一層旨いです。
その他加工品など
そのまま開き干しにしたり、味醂干し、塩辛などの保存食もあります。また、炙りノドグロといって、脂ののったノドグロの皮目をあぶった冷凍食品も絶品です。
コメント
炙った皮とさっと茹でた肝に熱燗、至福の時です・・・
debux2さん!
ノドグロは皮が旨いですから、刺身にするときに捨てちゃうとモッタイナイですよね!