最近、「アニサキス症が増加」というニュースが様々なメディアに溢れています。
はたして本当なのでしょうか?
【出典】食品安全委員会 ファクトシート「アニサキス症」(PDFのダウンロード)
目次
アニサキス症で世間が騒がしい
5月の連休前後、芸能人らが相次いでアニサキス症の感染経験をSNSに投稿し、世間を騒がせました。
TVでも各社こぞってニュース番組で取り上げ、厚生労働省が発表したアニサキス症の届出患者数のデータ(2007年:6人、2016年:126人)を根拠に、「10年間で20倍に増えた」とセンセーショナルに報じました。
ご覧になった方も多かったと思います。
【出典】厚生労働省 アニサキスによる食中毒を予防しましょう
患者数は昔から増えていないが、7,000人/年と高水準
結論から言うと、この報道は、いろいろな意味で間違っています。
発症者が増加した見かけ上の要因は、法律改正です。
2012年に食品衛生法施行規則が一部改正され、アニサキス症が食中毒の病因物質の種別として独立しました。
国立感染症研究所によると、1つの項目として集計されることで、食中毒の原因として注目されるきっかけになったとの見解を示しています。
現に、届出患者数が急増したのは2012年以降です。
しかし、安心するのは早計で、実態はもっと恐ろしいのです。
国立感染症研究所は、33万人を母集団とする診療報酬請求明細書(レセプト)から傷病名に「アニサキス」を含むデータを2005~11年にわたり年毎に抽出・集計し、「年間7,000人以上がアニサキス症を発症している」と試算しています。
ちなみに、交通事故による死者数が4,000人/年前後ですから、この数字が相当大きいものと実感できます。
つまり、アニサキス症の届出患者数は、実態を正しく反映しているものとは到底言えません。
「氷山の喫水線の上」だけを見て実態からかけ離れた不安を煽るような報道は厳に慎むべきですが、消費者側も賢く読み解かなければなりません。
そもそも、氷山がものすごく巨大なのです。
アニサキス症患者が「急増してはいないが定常的に多発している」実態を、正確に認識したいものです。
【出展】国立感染症研究所 アニサキス症とは
日経メディカル アニサキス症の届け出患者数は氷山の一角?
アニサキス症のリスクを正しく知ろう
以前のエントリーで、魚介を食べるリスクの一つとして「アニサキス症」を取り上げました。
また、「アニサキス症」リスクの高いサバを記事にもしました。
アニサキス症のまとめ
もう一度おさらいしてみましょう。
- アニサキスは、白色の太い糸のような形状(長さ2~3cm、幅0.5~1mm)の寄生虫
- サバ・イワシ・カツオ・サケ・イカ・サンマなどの内臓に寄生し、宿主が死んで鮮度が落ちると筋肉に移動、それを人間が刺身で食べると、生きたまま胃腸に達し、最悪の場合胃や腸の壁を食い破り、激しい痛みを起こす
- アニサキス症は発症部位により、胃アニサキス症、小腸アニサキス症、大腸アニサキス症、消化管外アニサキス症などに分類されるが、90%以上が胃アニサキス症
- アニサキスは体内で「増殖」しないので狭義の感染症には入らないが、「微生物が人体に害を与える」ことから、広義では感染症とするのが一般的
- 魚を生食する文化の日本では発症例は多く、食中毒の原因で見ると、ノロウイルス、カンピロバクターに次ぐ第3位(厚生労働省統計)
- 60℃で1分、70℃で瞬時に死滅。また、-20℃で24時間冷凍すると感染性を失う
予防法
- 漁獲後速やかに(刺身として食べる筋肉部位に移動する前に)内臓を除去する
- 調理の際に目視する(居たってよく見て取ればいいだけ、というハナシ)
- -20℃で24時間以上冷凍する
- 加熱する(生食しない)
俗説(何れも誤り)
- 酢で〆れば大丈夫(強力な胃酸でも死なない)
- よく噛んで食べれば大丈夫(噛めば確実に殺せる訳ではないし噛み切れないぐらい堅い)
- 家庭で冷凍すれば大丈夫(-20℃を24時間保持するのは家庭用冷蔵庫では無理)
アニサキス症より怖い「アニサキスアレルギー」
アニサキス症は、原因のアニサキスを内視鏡で見つけ鉗子で取り除けば、完治します。
患者もすぐに痛みから解放され、1時間もすれば食事が取れるほどケロッと回復します。
アニサキス症が本当に「恐ろしい」のは、“それなりの確率”で「アニサキスアレルギー」が生じるからです。
アニサキスアレルギーの主な症状は、魚介類を食べた後に起きる強烈な蕁麻疹や呼吸困難などのアレルギー反応で、場合によってはアナフィラキシーの症状を呈します。
しかしアニサキスアレルギーの本当の恐怖は、魚介類が一切食べられなくなることです。
論理上、アニサキスが寄生している魚を避ければいいだけですが、確率差こそあれ、ほぼ全ての海水に棲む魚介類にアニサキスが潜んでいる可能性がある以上、食べることができません。
もちろん、加熱しても駄目です。
アレルギーの原因となるアレルゲン(抗原)はアニサキスの構成蛋白質の一部であり、これは煮ても焼いてもなくならないからです。
これは、魚介を愛する人にとっては地獄の苦しみです。
つまりアニサキスは、魚好きにとって天敵とも言える存在です。
このさとなおさんのブログは、涙なしには読めません!
【出典】毎日新聞 医療プレミア 魚は一生ダメ? アニサキスの本当の怖さ
魚は一生ダメ? アニサキスの本当の怖さ
一方、アニサキス症への過度な警戒で売り上げ低迷
アニサキス症の“急増”報道が「煽り」であることは述べましたが、鮮魚販売の現場では、この風評とも言っていい情報の流布によって、売り上げが落ちたまま回復せず困っているらしいです。
以下、Twitterユーザーの泉さん(@syo_izumi)のツイートを抜粋します。
もともと鮮魚店にとってアニサキスは「会わない日はないくらい」メジャーかつ古くからいる寄生虫で、普段から十分注意して魚を扱っています。
寄生率も魚の種類によってかなり偏りがあり、サバや天然サケといったほぼ確実にいる魚は、そもそも生食で出していません。
しめサバなどは大手のスーパーやデパートで扱うものは、ほぼ間違いなく冷凍処理を行っているので、心配なときはお店に確認しましょう。
【出典】ねとらぼ アニサキス症の報道に鮮魚店から悲鳴
日本人の食文化そのものである生食を安全に
調べているうちに、もの凄いブログを発見しました!
アニサキスを食すこと自体を奨励する訳ではありませんが、世間で言われていることを鵜呑みにせず自ら検証する精神は、素晴らしいと思います。
リスクはいったい何なのか。どう予防できるのか。
正確な情報と予防手段を理解し、賢く魚介とつきあっていきたいものです。
コメント
個人的には「注意していれば見えるのでは?」と思いますが・・・
少なくとも、意識しているのが重要でしょうね。
debux2さん!
おっしゃるとおり、いろんな意味で、自分の目で確認する精神が大事だと思います。