スズキ目アジ科に分類されるブリ(鰤)は、血合いが赤く美しい白身魚です。天然モノは、冬から春に旬を迎えて1m前後にまで成長し、「寒ブリ」と呼ばれて珍重されます。特に日本海側や西日本の食文化に深い関わりがあり、宴席を彩ったり、「年取り魚」として年末始に欠かせない味覚です。
Fish Lovers Japanは、これまで何度かブリ関連の記事は書いてきましたが、今回は、天然/養殖の違い、ブランドの数々、寒ブリの調理法などを解説したいと思います。
目次
流通するブリ類の半分以上は養殖モノ
ブリは養殖が最も上手く成功した魚です。全国で市場に出回るブリ類(含カンパチなど)は、10万t/年の天然モノに対し、養殖モノは14万t/年にものぼり、57%を占めています。
2016年の漁獲量を都道府県別で言うと、島根県(12,600t/年)、石川県(11,900t/年)、北海道(11,800t/年)、長崎県(11,100t/年)、鳥取県(10,300t/年)の順です。一方の養殖モノは、鹿児島(46,500t/年)、愛媛(21,900t/年)、大分(20,400t/年)の順です。
【出典】農林水産省 漁業・養殖業生産統計
根強い「寒ブリ」需要
ブリの旬は、産卵期前で脂が乗る冬~春とされていて、この時期のブリを特に「寒ブリ」と呼び珍重します。寒ブリはカンパチやヒラマサよりも脂肪が多く、独特の風味があり、非常に人気が高いです。
伝統的に年末始に食べる魚を「年取り魚」と言いますが、富山県から関西地方では、ブリがまさに年とり魚です(東日本で年取り魚にあたるのはサケですね)。
出世魚で縁起が良いこともあり、西日本では御節料理に欠かせない食材とされ、雑煮の具としても用いられる地域も多いです。富山県氷見などでは、娘が嫁いだ初めての年末に、婚家に寒ブリを歳暮として贈る風習があります。九州の北部の地域では、逆に嫁ぎ先の家から嫁の実家へブリを贈る習慣があります。また、松本など内陸部でも塩鰤(塩蔵した、ブリ版の新巻鮭)を正月の魚として食べる習慣がありますが、これは、富山湾~飛騨高山~野麦峠~松本まで続くいわゆる「鰤街道」を通って運ばれているという訳です。
天然モノのブランドもやはり「寒ブリ」
ひみ寒ぶり(富山県)
website(うっかりクリックすると音♪が流れます注意)
氷見魚ブランド対策協議会が判定した期間に、富山湾の定置網で捕獲され、氷見漁港で競られた7kg(昨年までは6kg)以上の天然ブリ。獲れ始めたブリの大きさ、数量、形などから判断し「ひみ寒ぶり宣言」を行い、シーズンが終了したときは「終了宣言」を行います。氷見漁港で競られたことを証明する「販売証明書」を1尾に1枚発行し、統一の青箱に入れて出荷します。市場での評価は非常に高く、あまりの人気に偽装問題が起きたほどです。
天上ぶり(北海道)
9月中旬から10月下旬にかけての定置網で獲れる寒ブリの先駆けで、北海道余市で漁獲される最高級の天然ブリ。冬の「ひみ寒ぶり」に対し、秋の「天上ぶり」と言われています。冬モノほど脂が強くなく、旬のハシリとしての人気が高いです。
養殖ブリもブランドあり
養殖はかつて、赤潮被害に遭いやすい、残留飼料が海底に沈殿しヘドロ化する、配合飼料の匂いがして不味い、病気予防のための抗生物質残留が不安など様々な問題が指摘されました。しかし近年では、潮の流れが速い外海に筏を係留することによって、赤潮被害も減り、残留飼料が海底に蓄積しにくくなり、寄生虫も付きにくいため抗生物質の使用量も減り、運動量が増え身の締まったブリ/ハマチを提供できるようになりました。その結果、味も天然モノと遜色なく、一年を通じて状態が良いため、時期によっては天然物を上まわる逆転現象がしばしば起きるようになりました。
また、餌に柑橘等の果物生成物を混ぜた「フルーツ魚」も、盛んに養殖されています。
黒瀬ブリ(宮崎県)
ニッスイグループの黒瀬水産が、宮崎県串間市で養殖するブリ。2009年6月から「夏が旬」を謳った「黒瀬の若ブリ」の出荷を開始し、年中安定供給しています。
戸島一番ブリ(愛媛県)
潮流も早く、豊富な栄養塩が海底から湧き上がってくる「戸島」漁場で養殖されているブリ。潮の流れが絶え間なく変化する漁場で養殖されたブリは、運動量が豊富で身が引き締まっています。ドリップが少なく、風味と旨みが長持ちするのが特長です。
柚子鰤王(鹿児島)
高知大学が開発し、鹿児島県東町漁協の岩本水産によって2007年に販売が開始された養殖ブリ。数ある「フルーツ魚」の火付け役となりました。ヒラマサやカンパチに比べ血合の変色が早いブリの餌に、抗酸化作用を持つ柑橘(柚子)を添加することで、鮮度をより長く保ち、臭みのない個体の養殖に成功しました。
かぼすブリ(大分県)
全国3位のブリ養殖生産量を誇る大分県が、日本一の生産量を誇る「かぼす」を餌に養殖したブリ。
オリーブハマチ・オリーブぶり(香川県)
「オリーブハマチ」は、県特産のオリーブの葉の粉末を2%以上添加した餌を、20 日間以上与えた養殖ハマチ。オリーブの葉にも、抗酸化作用の強い成分(ポリフェノールの一種オレウロペイン)が豊富に含まれていています。「オリーブぶり」はより大型サイズの個体につけたブランドです。
ブリを照り焼きでしか食べないのはモッタイナイ
刺身(カルパッチョ、セビーチェ)、焼く(照り焼き、幽庵焼き、みそ漬け、塩焼き)、汁(吸い物、鍋、しゃぶしゃぶ、粕汁)、煮る(ブリ大根、煮付け)など料理法は幅広いので、いろいろチャレンジしてみましょう!
刺身
刺身の味は、個体のサイズや養殖/天然で大きく違います。養殖モノは年間を通じて脂が強く、刺身の色も白っぽいのに対し、天然モノは綺麗なピンクがかった赤い色をしています。中でも寒ブリは、脂ののりや旨みが強く、刺身として最高に旨いという向きも多いです。高知などではヌタ(酢味噌タレ)を付けて食べます。
照り焼き
油で焼いた後、一旦取りだして、味醂、酒、砂糖、醤油などをフライパンで煮つめて、からめます。手間はかかりますが、濃厚な脂が濃いめの味付けに負けず、ご飯のおかずとしても酒のアテとしても、最強です。
ブリしゃぶ
個人的に、ブリしゃぶは大好きです。特に脂の強い養殖モノは、少し火を通すと食べ易くなりますし、一緒に野菜なども摂れるので、ヘルシーにいただけていいですね。
鰤大根
ブリのアラと大根を、じっくり煮て作ります。長時間煮込むと、骨まで食べられます。ブリの出汁と脂を吸った大根は、えもいわれぬ旨さです。臭み消しの生姜がポイントです。
鰤カマ
定食屋、居酒屋などでは、ブリのカマ(鰓蓋から胸びれまでの部分)を煮物や焼き物にして出します。おそらく元々はマカナイだったのでしょうが、こんなに旨いものを日陰者扱いする必要は、何処にもありません。
粕汁
北陸、福井、京都、岐阜、長野県松本、山陰、北九州など、多くの地域のブリ定番料理のひとつです。振り塩をして熱湯に通したブリの汁に、根菜を煮込み、酒粕と味噌を溶き入れて作ります。あったかいんだからぁ♪
雑煮
福岡県、岐阜県、長野県、岡山県などでは、ブリの入った雑煮が珍しくありません。
吸い物
徳島県をはじめ西日本では、冠婚葬祭に出される吸い物(すまし汁)に、椀種としてブリやハマチを入れます。場合によってはサワラも使われるとのことですが、やはり目出度い席にはブリが定番です。昆布出汁と合わせても、うま味が引き立ちます。